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中空に浮かぶ大都市?

2008/09/16

 農業が、人びとの生命と生活、自然環境を維持するためにどれだけ大切か。
 そのことを声を大にして叫ばなければならない時代が来てしまった。

 農山村で日々、診療をしていると大都会との絶望的な地域格差を感じる。
 しかも、それが広がる一方だ。

 都会にある研修医定員十数名の花形病院に100人近い応募者が殺到する一方で、
 郡部の病院では医師が足りず、院長の当直が月に20回。

 救急指定を返上し、産科、人間ドックもやめ、土曜診療も打ち切って、
 なんとか生きのびている。

 かと思えば、山寺の住職のこんな話。

「この20年でお墓を都会へ移す檀家が続出し、境内のお墓が半減してしまった」

「限界化」して、「需要」はあるはずなのに、墓地は流出。一方の都会では、
「お墓のマンション」のような納骨堂の権利が飛ぶように売れているという。

「墓参りのためだけに田舎に行くのは時間的にも経済的にも非効率」

 そんなふうにテレビで都会人たちが話していた、
 とふだんテレビを見ない私のところに訴えが届いた。

 のどかな田園地帯をぎっしり人が詰まった「2両編成」の列車が走っていく光景は、
 悲しみすら覚える。

 地方の列車やバスの便数は、どんどん減って運行は通勤・通学の時間帯だけ。
 まるで大都市のラッシュアワー並の混みようだ。

 それもこれもこの国が、農業を単に商品経済の対象としか考えず、
 農村を安価な労働力供給源と割り切ったところからはじまった。

 今年7月末のWTOのドーハラウンドの締結失敗に際し、テレビのコメンテーターたちは
「(都会の)消費者が安価な農作物を買えないのは言語道断。
 農産物の市場開放をもっと進めるべき。
 日本の農家は、安全で安心できる作物をもっと安く提供しろ」

 

著者プロフィール

色平哲郎(JA長野厚生連・佐久総合病院 地域医療部 地域ケア科医長)●いろひら てつろう氏。東大理科1類を中退し世界を放浪後、京大医学部入学。1998年から2008年まで南相木村国保直営診療所長。08年から現職。

連載の紹介

色平哲郎の「医のふるさと」
今の医療はどこかおかしい。そもそも医療とは何か? 医者とは何? 世界を放浪後、故若月俊一氏に憧れ佐久総合病院の門を叩き、地域医療を実践する異色の医者が、信州の奥山から「医の原点」を問いかけます。

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