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2つの最高裁判決が問うもの
医師の時間外勤務と医療崩壊を考える

2013/05/08

 先日、奈良県が抱える2つの医師の時間外労働に関する裁判について、最高裁判所から判断が下されました。1つ目は医師の当直時間を巡る訴訟で、宿日直は労働にあたるかどうかが争われたもの。もう1つは過労が原因で亡くなった研修医に支払われる地方公務員災害補償基金の補償額に、病院内で勉強していた時間などを算入するかどうかが争われたものです。

 前者の訴訟では、2次救急を受け入れる病院の産科当直は、基本的に業務を行わない「宿日直」ではなく、「時間外労働」と判断されました(関連記事:2013.2.13「宿日直を労働と認め、県に1500万円の支払い命じる」)。この訴訟については、日経メディカルも含め、多くのメディアで取り上げられていたため、ご存知の方も多いでしょう。

 また後者の訴訟は2004年、県立三室病院(奈良県生駒郡三郷町)の研修医がインフルエンザに罹患し、心室細動で亡くなった件に関するものです。地方公務員災害補償基金奈良支部(奈良県庁内に設置)は過重労働による公務災害と認定したものの、給与が支払われていなかった自発的研鑽の時間などを補償額に算定すべきかが争われ、最終的に算定すべきと判断されました(参考記事:「残業『不算入は違法』確定-研修医の過労死で最高裁」〔47newsより〕)。

 すなわち、この2つの最高裁判決により、医師の当直や時間外勤務が「労働時間」であることが明確になったと言えるでしょう。

医師の過労への対策は不十分
 以前は、ある程度までは医師のサービス残業が当たり前とされていました。しかし医療訴訟の急増に伴い、インフォームドコンセントの徹底による書類業務や高度な医療を行う施設への患者の集中が起こり、過重労働の“過酷さ”は一線を超えました。

 そこに医師の初期臨床研修の必修化が重なり、医師を派遣する大学側の人事交代に支障を来して、さらなる労働強化が発生。当直や時間外勤務を黙って「サービス」と済ますには負荷が重くなりすぎてしまいました。我慢ができなくなった医師が病院から立ち去り、「医療崩壊」と呼ばれる診療科の閉鎖や病棟閉鎖に至ったのは、皆さんもよくご存知の通りです。

 行政も手をこまぬいていたわけではありません。2008年度の診療報酬改定より厚生労働省は、診療報酬に組み込む形で病院勤務医の負担を軽減する体制を評価し、医師の負荷軽減策を打ち出しました。2010年度の改定ではその評価対象を3項目から8項目に対象を拡大しています(参考資料がこちら)。

 さらに、同年度の改定時に厚労省は、総合入院体制加算や救命救急入院料加算、医師事務作業補助体制加算などの加算を算定する場合、「実際に病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に結び付くよう、より効果の期待できる院内体制の整備など負担の軽減及び処遇の改善に係る計画の策定と実行を求められることとなる」との業務連絡を発出しています(参考資料はこちら)。

 2012年度の診療報酬改定においても、病棟薬剤師の配置などチーム医療の推進に向けた取り組みを評価するなど、負担軽減に対する評価を15項目に拡大し、医師が診療や治療に専念できる病院を支援する仕組みを作ろうとしています。

 しかし一方で、昨年、勤務医の労働組合である全国医師ユニオンが中心となって行った勤務医労働実態調査では、「依然、当直を担う勤務医の8割は32時間連続勤務を行っている」「残業不払いが横行しており、9割の勤務医が『労働問題を話し合う場がない』と回答している」といった結果が報告されています(参考資料:『勤務医の負担増加は深刻 ~進まない負担軽減~ 勤務医労働実態調査 2012 集計結果 速報』勤務医労働実態調査 2012 実行委員会)。

 では、上記のような行政の取り組みは、現場レベルではまだ十分な効果が出ていないということなのか、というと、必ずしもそうとも言い切れません。先進的な取り組みを行っていることで知られる近森病院(高知県高知市、452床)を見学させていただき、私は考えを新たにしました。

著者プロフィール

井上雅博〇いのうえまさひろ氏。1993年島根医科大学卒。名古屋大学循環器内科に入局、外資系製薬企業、脳神経センター 大田記念病院(広島県福山市)を経て製薬企業に移籍。東京医科歯科大学大学院医療政策情報学分野大学院研究生としてDPCデータの研究に携わっている。

連載の紹介

ニュースウォッチャー井上雅博の「世相を斬る」
日々、新聞やネットで医療に関するニュースをもとに、skyteamの名前でアルファブロガーとして活動してきた井上氏が、ニュースをもとに考察していきます。

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