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悲しい交通事故を繰り返さないためにできること

2011/09/12

 前々回前回と、発作性疾患にかかわる自動車事故について、医療者がどのようにアプローチするべきかをつづりました。今回は、医療という観点からは外れますが、自動車事故を未然に防ぐための取り組みや、技術について広く考えました。

 人類は便利な自動車を次々に開発する一方で、自動車事故と闘い続けてきました。自動車の歴史は1769年にフランス陸軍が製作した砲車に始まりましたが、この車は最高時速わずか3キロにもかかわらず、パリ市内で塀に衝突するという、世界最初の自動車事故を起こしています。1997年の警察白書では、1946年から1996年までの51年間に、日本国内における交通事故死亡者が累計50万6千人に上ったことが報告され「交通戦争」という言葉を産み出しました。

 筒井康隆の近未来小説『無人警察』には、小型の電子頭脳を持つ巡査ロボットが登場します。速度検査機、アルコール摂取量探知機、脳波測定機を内蔵し、てんかんの発作を起こす恐れのある者が運転していると、脳波測定機で運転者の脳波を検査するという機能を備えていました。

 この小説の一部は教科書にも収録され、そのことに抗議した日本てんかん協会との論争の末、筒井康隆が1993年に断筆宣言をした経緯はご存じの方も多いと思います。しかし近い将来、てんかんを持病とするドライバーの安全運転を可能にするため、電極を頭皮につける必要のない「ワイヤレス脳波計」が現実のものになる日が来るかもしれません。

交通安全につながる医療技術の発展
 実際、事故防止に役立つさまざまな技術が登場しています。例えば、治療技術が発展し、より多くの患者さんの発作をコントロール可能な状態にできれば、運転時のリスクを減らせます。

 てんかんの治療についていえば、海馬切除術、焦点切除術、半球離断術、軟膜下皮質多切術など、さまざまな外科的治療技術が開発され、国内でも行われるようになってきました。手術適応とされる疾患の種類により治療成績は様々ですが、おおむね60~80%の例で発作の減少ないし消失を得られます。

 米国では1990年頃から、「迷走神経刺激療法」が効果を上げています。これは胃潰瘍の治療として迷走神経離断術を行ったところ、脳波に変化が生じた、という発見が基になって考案されました。左頚部迷走神経に刺激電極を、前胸部に電源装置を埋め込んで、左迷走神経に対し、間けつ的に電気刺激を与え続けることで、大脳全体の発作抑制力を高めるものです。

 また心疾患については、完全房室ブロック、MobitzⅡ型房室ブロック、洞不全症候群など、徐脈によりめまいや失神を繰り返す症状に対し、心房心室同期型および心拍応答型の人工ペースメーカーが、広く実用化されています。日本では1963年に東京大学で国内初のペースメーカー装着が行われ、今日では全国に約30万人の装着者がいるといわれています。この中には自動車の運転をされている方も数多くいらっしゃいます。

著者プロフィール

今高城治(獨協医科大学小児科講師)●いまたか じょうじ氏。獨協医科大学医学部卒、慶應義塾大学文学部(哲学)卒、医学博士。小児神経学会評議員。現在、慶應義塾大学法学部(通信教育課程)に在籍し政治学を専攻中。

連載の紹介

今高城治の「医療と生命倫理のパンセ」
文明と医学の進歩は人類に本当の幸せをもたらすのか?超重症児医療に従事しながら、哲学・倫理学・法学を修める今高氏が、独自の世界観を背景に現代の倫理、哲学、思想、サイエンスに対する諸問題を論考していきます。

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