日経メディカルのロゴ画像

運転が心配なのはてんかん患者に限らない

2011/06/27

 前回のブログに続き、2011年4月18日、栃木県で自走式クレーン車を運転したてんかん患者が発作を起こし、対向車線の歩道に乗り上げ小学生15人の列に突っ込み6人が犠牲となった事故について考えました。

 この事故でにわかに、世間の注目がてんかんに集まり、急遽、日本てんかん協会や日本てんかん学会から声明が発せられました。しかし、今回の事故を受けて迅速な声明を発したのはてんかんに関連した団体のみでした。

 ここで一つ考えておかなければいけないことがあります。発作性に意識や運動障害を起こす可能性のある疾患は、てんかんに限らないということです。

 糖尿病、脳卒中、高血圧、心筋梗塞、躁うつ病、パニック障害、低血糖、ナルコレプシー、電解質異常症、一過性脳虚血発作、不整脈、失神…。もちろん疾患の重症度によって患者さんの病状は千差万別ですので、これらの疾患の患者さんによる運転が一概に危険だというつもりはありませんが、現実には事故が起きています。

 例えば、2006年5月に開催された第49回日本糖尿病学会では、糖尿病患者の0.5%が、低血糖による自動車事故を経験している、という実態が報告されました。2009年12月には3.5トントラックが13台もの乗用車を巻き込む交通事故が起こり、7人が重軽傷を負いました。加害者であるトラックの運転手は、低血糖に伴う失神状態にありました。

 国内外の報告を複数確認したところ、自動車運転者の交通事故のうち内因性疾患が原因とされるものは、報告によって0.4~10%前後となっています。そのうち大半を占めるのが虚血性心疾患と脳卒中です。

 てんかんの有病率は、小児期と50歳以上で高くなっています。高齢化社会に突入しつつある日本では、今後、高齢のてんかん患者数がさらに増加することが予想されます。同様に、虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病、急性精神病などの発作性症状を来たしうる疾患の患者数も近年増加傾向にあります。発作性症状に関連する交通事故の増加は、近い将来大きな社会問題となることでしょう。

 我々医療者も、発作を起こす可能性のある疾患にかかわる際には、日常的に起きている交通事故の背景にこれらの疾患が密接に絡んでいることを認識しておかなければなりません。

著者プロフィール

今高城治(獨協医科大学小児科講師)●いまたか じょうじ氏。獨協医科大学医学部卒、慶應義塾大学文学部(哲学)卒、医学博士。小児神経学会評議員。現在、慶應義塾大学法学部(通信教育課程)に在籍し政治学を専攻中。

連載の紹介

今高城治の「医療と生命倫理のパンセ」
文明と医学の進歩は人類に本当の幸せをもたらすのか?超重症児医療に従事しながら、哲学・倫理学・法学を修める今高氏が、独自の世界観を背景に現代の倫理、哲学、思想、サイエンスに対する諸問題を論考していきます。

この記事を読んでいる人におすすめ