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ヒューマン・エンハンスメントが生む未来の人間間格差 

2008/11/25

 2008年11月4日の米イリノイ州シカゴ、マケイン氏にオバマ氏が勝利し、黒人初となる米国大統領が誕生しました。この映像に、米国の人種の壁の根強さを改めて痛感した人も多いと思います。

 オバマ氏の姿に、1963年8月28日、リンカーン記念堂年前に25万人が参加集結したワ
シントン大行進でマーチン・ルーサー・キング牧師が演説した、“I Have a Dream”を重ね見た人も多いことでしょう。

 この演説で彼は、“We hold these truths to be self-evident; that all men are equal.”つまり、「すべての人間は等しい状態で創造される」と主張し、黒人公民権獲得運動と人種差別制度の廃止を求め、翌1964年にノーベル平和賞を受賞しました。

 日本人である僕はオバマ氏の姿に、大正デモクラシー最中の1922年、被差別部落に対する差別制度の廃止を唱えた、日本最初の人権宣言となる西光万吉らの「全国水平社創立宣言」を垣間見た思いでした。そしてキング牧師の姿には、慶応義塾の創設者である福沢諭吉の「学問のすすめ」に由来する「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」と講じた人類平等の普遍論を二重視しました。

 これら人権の格差の始まりは、歴史的には文化的な側面がもたらす生活や貧富の差から優劣や偏見を生み出しました。近代化以降は、工業化の進歩の差がやがて人種間の武力の差をもたらし、植民地支配と侵略戦争という国家間、人種間の争いを生み出しました。

 国連は地球上のあらゆる人権について、1948年に「世界人権宣言」を決議採択し、これを契機に、毎年12月10日は国連・人権デーとうたっています。

 時代とともに一つひとつの格差や差別の壁が取り払われて、やがて本当の意味で、世の中のあらゆる壁が崩壊する日が到来することを、僕は願うばかりです。

 しかし、Googleがインターネットで世界を征服し情報がグローバル化された現代、医療技術の飛躍的な進歩は、また新たなる人間間格差を膨化させる危険性を生み出しました。

 「ヒューマン・エンハンスメント」という概念をご存知でしょうか。

 人々の健康や疾病の治療を目的とした医療がその目的を超越し、生物種である人間に対して、遺伝子工学という技術の進歩を利用して、人の身体における運動能力・知的能力・精神力などの増強を図ることです。遺伝子工学技術を倫理的・社会的側面から考える際にしばしば用いられる概念です。

 最先端の生命科学遺伝子工学技術を制したほんの一部の者だけが、その技術を自由に利用することが可能となるとしたら、一体、遺伝子工学が医療上に、どのような事態が起こるのでしょうか。

著者プロフィール

今高城治(獨協医科大学小児科講師)●いまたか じょうじ氏。獨協医科大学医学部卒、慶應義塾大学文学部(哲学)卒、医学博士。小児神経学会評議員。現在、慶應義塾大学法学部(通信教育課程)に在籍し政治学を専攻中。

連載の紹介

今高城治の「医療と生命倫理のパンセ」
文明と医学の進歩は人類に本当の幸せをもたらすのか?超重症児医療に従事しながら、哲学・倫理学・法学を修める今高氏が、独自の世界観を背景に現代の倫理、哲学、思想、サイエンスに対する諸問題を論考していきます。

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