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新設の科が研修医をいかに集めたか?

2013/05/30
堀越裕歩

 感染症科専修の研修医を迎える――。新設の科として始まった感染症科が当初から掲げた目標の一つである。臨床教育を充実させるという方針を前面に出しはしたものの、まさに言うは易し。各病院が小児科後期研修医を獲得するのでさえ大変な状況で、何の実績や歴史もない新設科に小児科専門医レベルの6~10年目の先生に来てもらうというのは、大きな困難が予想された。

 日本の医療機関にProgram Directorという役職はない。トロントや海外の研修プログラムを見ていると、感染症科や循環器科など各科にProgram Directorという研修プログラムを統括する役職の医師がいて、臨床や研究とは独立して教育の仕事だけをする時間を割り当てられているので、研修に関する仕事を一手に引き受けられる。

 日本の役職で一番近いのは臨床研修委員長だろうが、各科ではなくせいぜい(小児)病院に1人。しかも、他の業務を減免されることもない。小児感染症科の“Program Director”も当然、自分が担当したわけだが、研修医ゼロから始めて4年目の今年、やっと当科専属の研修医は3人、短期ローテーターを院内と全国から年間14人受け入れるという状況になっている。そこまでの過程を振り返ってみたい。

強みがないなら、つくればいい
 海外において人気のある研修プログラムには、いくつかの条件がある。

(1)ネームバリュー、診療あるいは研究の実績がある
(2)症例数が豊富
(3)研修医の口コミでの評判が良く、働いている研修医が満足している
(4)カリスマ的なスタッフがいる
(5)Program Directorが優れている
(6)科の雰囲気が良い
(7)ロケーションが良い


 これらの条件すべてが必須というわけではないが、多いに越したことはない。では、東京都立小児総合医療センターに新設した小児感染症科が、研修医を引きつける特徴や強みは何だろうか?

 (6)の科の雰囲気については悪いものではなかったと思うが、雰囲気以前にスタッフが自分1人しかいなかった。強いて挙げれば(7)のロケーションが東京にあるということくらいだろうか。新宿から電車で30分ほどという、都心から離れた東京都府中市に。

 考えてみても結局、新設の診療科が満たしている項目はなかった。ないのだったら、これらの項目を満たすことを目標に教育プログラムを作って行けばよい。当時はこんな逆算の発想をした。

 まず考えたのは、東京都立小児総合医療センターの中にあって最も開拓できる条件は何か?すぐに思い当たったのは、(2)の「症例数が豊富」という条件だった。561床の小児病床を抱え、一次から三次までカバーする小児救急、小児と新生児の集中治療、外科疾患、骨髄および固形移植を行っている小児の専門病院で、感染症の診療や予防のニーズが小さいわけがない。

 赴任当初、感染症のコンサルトはほとんどもらえず、最初の2週間のコンサルト数はたったの4件という状況だったが、問題は「感染症コンサルトのニーズをどうやって掘り起こすか」ということだった。といっても、近道があるわけではなく、「感染症科に相談すると、疾患の治療もうまく行く」という成功体験を重ねて、信頼を得ることが一番確実な道だと思った。

著者プロフィール

堀越裕歩氏(東京都立小児総合医療センター感染症科)●2001年昭和大卒。沖縄県立中部病院、昭和大学小児科、国立成育医療センター(当時)などを経て、08年7月カナダ・トロント小児病院にクリニカルフェローとして留学。10年8月から現職。

連載の紹介

堀越裕歩の「小児感染症科はじめて物語」
カナダでの2年の臨床留学から帰国し、小児専門病院で与えられたミッションは「小児の感染症科の立ち上げ」。手指衛生の徹底から始まり、時には抗菌薬処方をめぐって衝突…。国際標準の小児感染症診療を日本で実践する中での奮闘をご紹介します。

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