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水痘の診断は電子顕微鏡とPCRで?

2013/02/19
堀越裕歩

母親「昨日からポチポチが出てきて、朝、見たら全身に拡がってました。保育園で水ぼうそうが流行っているようです」
医師「どれどれ。あー、典型的な発疹だね。これは水痘、水ぼうそうだね。」

 水痘の患児に対し、日本における典型的な診察風景はこういった感じだろう。ところがトロント小児病院で研修していたとき、驚いたのがその診断方法だった。

微生物学者が水疱から検体採取、電顕とPCRでつぶさに確認
 カナダでは、水痘はワクチンでコントロールされていて、日本と比較すると発症率は圧倒的に低い。しかし、移民の子などの発症はたまにあるので、移民が多いトロントで水痘に遭遇するのはさほど珍しいことではない。

 驚いたというのはまず、水疱などを確認して水痘を疑った場合、院内のオンコールの微生物学者をわざわざ呼ぶことだった。呼ばれるのはだいたい、医師であり臨床微生物学フェローでもあるスタッフ。日中ならば、ほぼ対応してくれる。

 彼らには、検体の質への徹底的なこだわりがある。ウイルスの多いできたてのみずみずしい水疱をつぶして、内容液をスワブで採取していく。このときに血液が混入すると、潜在性のウイルスを拾ってしまう。そのため、看護師や主治医に検体を採取させることはない。

 採取した検体は、電子顕微鏡の検鏡とPCR(Polymerase Chain Reaction)検査に送られる(ちなみに世界初ではないが、世界初の実用的な電子顕微鏡は1938年にトロント大学で製作された)。技師さんたちは電子顕微鏡でヘルペス属のウイルスを丹念に探す。見つかれば30分ほどで報告がくる。ただし、ヘルペスウイルスが見つかったとしても、水痘を引き起こす水痘・帯状疱疹ウイルスか、それ以外のものかの区別はつかない。

 水痘の確定診断は、より特異的な検査であるPCRによる。電子顕微鏡より時間はかかるが、PCRで水痘・帯状疱疹ウイルスの遺伝子が増幅されて検出されれば、確定診断となる。

 水痘の診断に、電子顕微鏡やPCRが出てくることは日本ではまずないだろう。おそらく、その方が医療経済的に正しい方法だと思う(水痘流行をワクチンでコントロールしていないという点が、既に大きく間違っていることはさておき)。ちなみにトロント小児病院では、ウイルス性胃腸炎の診断にも電子顕微鏡とPCRを使用する。下痢便を出すと、やはり技師さんが電子顕微鏡でウイルスを探してくれる。

重症児の脅威を同定するには分子生物学的検査が必須
 帰国して東京都立小児総合医療センターに赴任し、小児感染症科の立ち上げに際して取り組んだことの一つが、感染症の診断部門の強化だった。細菌検査室は院内にあり、子どもたちを苦しめる微生物の同定や薬剤感受性の判定に、非常に優秀な技師さんたちが懸命に頑張ってくれていた。一方、海外の小児病院と比較して大きく遅れていたのが、分子生物学的診断の機能であった。

 PCRなどによる微生物のDNAおよびRNAの同定・定量は、感染症診断では欠かせない技術になってきている。現在では、途上国ですら結核やその耐性の検査に導入され始めているほどだ。特に小児病院では免疫不全や重症児などが多く、細菌のように培養が容易でないウイルスが脅威となることは多い。また、細菌の中にも、百日咳のように培養が難しい菌がある。

著者プロフィール

堀越裕歩氏(東京都立小児総合医療センター感染症科)●2001年昭和大卒。沖縄県立中部病院、昭和大学小児科、国立成育医療センター(当時)などを経て、08年7月カナダ・トロント小児病院にクリニカルフェローとして留学。10年8月から現職。

連載の紹介

堀越裕歩の「小児感染症科はじめて物語」
カナダでの2年の臨床留学から帰国し、小児専門病院で与えられたミッションは「小児の感染症科の立ち上げ」。手指衛生の徹底から始まり、時には抗菌薬処方をめぐって衝突…。国際標準の小児感染症診療を日本で実践する中での奮闘をご紹介します。

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