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どうする? 日本の高齢者ケア―デンマークの取り組みに学ぶ

2010/10/06

白梅学園大学教授の山路憲夫氏の講演風景。

 去る9月11日、第63回医療制度研究会「地域ケアをどう作るのか―デンマーク・ネストヴェズ市の取り組みから」が、済生会宇都宮病院で開催されました。今回の演者は元毎日新聞の記者で、現在は白梅学園大学で社会保障の教鞭をとっている山路憲夫氏です。

 私は今回の講演を大変楽しみにしていました。というのも、私の病院でも、高齢者の緊急手術や待機手術時に、介護や福祉の不備を肌で感じることが多いからです。急性腹症で無事手術は乗り切っても、さて退院となると自宅で介護する人がいない。施設を探してもどこも一杯…。このようなことは日常茶飯事です。

 現在の医療現場の問題を解決するためには、介護福祉の整備も同時に解決が必要です。そのために何が必要なのか。山路氏の講演から、多くのことを学びました。以下にその概要をご紹介します。

 デンマークネストヴェズ市は、高齢者ケアのモデルとして有名な街です。なぜ同市が有名になったのか。それは、「プライエム」と呼ばれる日本の特別養護老人ホームのような施設をなくし、在宅、地域でケアしていく仕組みを確立させたからだそうです。

 そのきっかけは、1978年の「プライエムの生活条件が悪い」という新聞投書でした。その後、1982年に高齢者諮問委員会が設置され、「高齢者サービスのあり方に関する報告」(アナセン報告)が出されました。その骨子は高齢者福祉の3原則と7つのケアシステムにまとめられ、3原則とは、(1)継続性の原則、(2)自己決定の原則、(3)自己資源の活用・開発の原則(残存能力の活用)、そして24時間在宅ケアでした。

 講演では、実際に、ネストヴェズ市の高齢者住宅の様子が映像で紹介されました。認知症の高齢者が、24時間、介護と医療の連携の下、「プライエボーリ」と呼ばれる介護付き高齢者住宅で生活しています。一方、自宅で過ごしたい人は、その思いを尊重して、24時間在宅ケアシステムでケアしています。

 デンマークは、社会全体の介護力を向上させようと、介護体制を整備し、介護職員の教育にも力を入れています。ネストヴェズ市長は「高齢者になっても困らない、ということを若い人に伝えることが大切だ」と説明し、将来に対する不安感を取り除くことが重要である、との考えを述べています。現在同市は、このシステムを国内だけでなく世界に広めようと、1週間の研修プログラムを作り、世界中から見学者を受け入れているそうです。

 ネストヴェズ市のプライエボーリは部屋も広く、高齢者の移動にリフト(福祉用具)を多用し、介護者の腰痛予防(働く人の労働条件を良くする)にも力を入れています。またデンマークは家庭医制度で、必要があると認められた時に市の病院に紹介され、入院や治療を受けます。原則医療は無料ですが、入院期間は短く、平均在院日数は5~7日。退院後のリハビリは保健センターなどが受け持つようになっています。つまり、医療は(日本で言うところの)都道府県単位、介護は市町村単位でカバーするという役割分担がしっかりとできているのです。

著者プロフィール

本田宏(済生会栗橋病院院長補佐)●ほんだ ひろし氏。1979年弘前大卒後、同大学第1外科。東京女子医大腎臓病総合医療センター外科を経て、89年済生会栗橋病院(埼玉県)外科部長、01年同院副院長。11年7月より現職。

連載の紹介

本田宏の「勤務医よ、闘え!」
深刻化する医師不足、疲弊する勤務医、増大する医療ニーズ—。医療の現場をよく知らない人々が医療政策を決めていいのか?医療再建のため、最前線の勤務医自らが考え、声を上げていく上での情報共有の場を作ります。

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