
「診療研究」2009年5月号に掲載された佐藤氏の論文
2001年3月、東京女子医大病院で手術を受けた12歳の女児が死亡するという医療事故が起こりました。この事故で業務上過失致死罪に問われ、2002年6月に逮捕、同年7月に起訴された佐藤一樹医師(元東京女子医大日本心臓血圧研究所循環器小児外科助手)は、2009年4月10日に無罪が確定するまで、約7年間被告人の立場に置かれました。
その佐藤医師が、「診療研究」(東京保険医協会)2009年5月号で、「被告人の視点からみた医療司法問題の実際」として、自らの体験を通して感じた司法の問題を指摘しています(同論文を紹介した佐藤医師のブログはこちら)。
医療現場に携わっていれば、誰しもいつ佐藤氏と同様の立場に置かれるかわかりません。ぜひ皆さんもこの論文をご覧ください。以下に、論文の一部を抜粋しご紹介します。
佐藤一樹「被告人の視点からみた医療司法問題の実際」(「診療研究」2009年5月号)より
1.司法警察(員)―フィードバックされない現場刑事の捜査
(前略)内部報告書が誤りだと認識した警察組織は、内部報告書を否定する私や医局員の意見を抑え付けにかかります。平たく言えば、女子医大病院幹部と手を組みました。(中略)私と大学内の電話回線を使用して会話した医局員には、その直後に「お前は警察にマークされている」と主任教授から圧力がかかるようになりました。
(中略)取り調べ中に現場捜査官(主任刑事)が突然号泣し、「これだけ社会問題になると、誰かが悪者にならなきゃならない。賠償金も家族の言い値で支払われているのに、なぜこんな難しい事件を俺たちが担当しなきゃいけないんだ」――これが、1人の人に戻った刑事の心の叫びです。
(中略)医療犯罪捜査実務専門書には、「社会的な影響の大きい事件等、状況によっては、たとえ裏付け資料が不十分でも立件して捜査と遂げるべき事件もある」と堂々と書かれています。号泣純情派刑事と次に会ったときには、歯車はもとの装置に収まっていました。「1人の人」の叫びは、警察組織の座標軸にフィードバックされなかったことがすぐに理解されました。(後略)
3.公判検事(地検) ―科学的事実の証拠隠し
(前略)検察官の提出した証拠には「フィルター」に関する証拠が跡形もありません。理由は簡単。検察官にとって不利な証拠だったからです。(中略)「検察官自らが作成した調書が検察にとって不利な場合は提出しない」「事件の核心に関連するフィルターの証拠も検察にとって不利なので提出しない」という行為は、刑事訴訟法上不法ではありません。しかし、卑怯です。卑怯です。反社会的行為です。この検察官同様に、医師が診療録の提出を求められ、その一部を提出せずに破棄すれば、間違いなく改ざんとされ刑事責任を問われます。(後略)