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「国に洗脳された!」―地方大学元学長の証言

2008/08/26

 医師不足が大問題になっている、ある地域の地元紙で今年1月、「医師不足」の特集が組まれていました。その中で「国の見通し甘かった、医師不足、医学部定員減が要因」「国に洗脳された」という衝撃的な見出しで、地元大学の元学長の取材に基づく記事が掲載されました。

 その中で、「定員削減は、どのような流れで行われるようになったのか」という地元記者の質問に、元学長は「厚生省(現厚生労働省)がデータを見せるわけですよ。厚生省がいっぱいデータを見せて、日本の人口は減っていくのに、医師は毎年何千人かずつ増えていく。このままでいくと、医師があふれてしまう。そういう数値をいろいろなファクター(要素)を加えて説明し、医師は過剰になる、だから少しずつ減らしたいということを。厚生省だけでなく文部省(文部科学省)も。(中略)洗脳するんですよ」と答えています。

 医学部定員減が断行され、グローバルスタンダードから日本の医師数は大きく乖離し、そこに新臨床研修制度が導入されたのです。そして各地で医師不足が顕在化し、医療崩壊が始まったのです。元学長の言葉は、「国が現在の医師不足を主導した」という意味で、大変貴重な証言です。

 私もこの10年近く、医師増員と医療費増が医療崩壊阻止の必要最低条件であると訴えてきました。医師増員が医療崩壊阻止の十分条件でないことは自明であり、医療体制のあり方も含めて多角的な改善が必要であることは、当然のことながら私も考えています。そして今までの活動の中で、厚労省の官僚の方と直接接し、元学長と同様の経験をしてきましたので、今回はあえてその一端をご紹介します。

1)地域医療関連のある勉強会の席上、新臨床研修制度担当のA医系技官に、「医師を増員しないと大変なことになりますよね」と質問したところ、平然と「歯科医のようになってもいいのですか」と言われました。つまり「あなたたちの待遇が悪化してもいいのですか」という“脅し”なのです。恐らく、この“脅し”で多くの医師や医学生は医師増員反対派に回ってしまうのではないでしょうか。

2)都内で行われた医師不足関連のシンポジウムで、B医系技官に「私は医療崩壊の根底にある、日本の医療体制がグローバルスタンダードから大きく立ち遅れている、という現状を、一人でも多くの国民の方に知っていただいて、国民に医療費増と医師増員に賛成してもらえるように活動しているのです」と話したところ、「国民や政治家に、正しい判断ができると思いますか」と切り返されました。この発言こそ、「官尊民卑」の思想が今でも生きている証拠です。

 同じ医師の官僚の言葉に、さすがの私も一瞬面食らいましたが、「正しい情報がなければ、正しい判断はできないでしょう。それでは戦前・戦中と同じではないですか」と反論しました。

3)つい先日のある外科系学会で、C医系技官と医師不足などについて討論しました。その後しばらくして、ある医療関連の雑誌で、その技官が講演会で「最近、大学教授の一部が本田宏先生に洗脳されて、困っている」と発言していたことが紹介されているのを見てびっくりしました。現在、医師不足を訴えている大学教授が、私に洗脳されている――。現場を一切無視して洗脳を続け、日本の医療体制をここまで崩壊させたのは彼ら自身のはずなのですが。

 ここでお断りしますが、あえて上記のエピソードをご紹介したのは、A,B,C医系技官の方それぞれの個人を責めるためではありません。医師免許を取得し、その後、あえて厚労省に入省したのは、技官(行政)の立場から日本の医療を良くしたいという熱い思いがあったからに違いありません。そして官僚としての仕事や地方勤務を経て、国会対策などで必死に頑張っていることは私も良く聞いて知っているつもりです。

著者プロフィール

本田宏(済生会栗橋病院院長補佐)●ほんだ ひろし氏。1979年弘前大卒後、同大学第1外科。東京女子医大腎臓病総合医療センター外科を経て、89年済生会栗橋病院(埼玉県)外科部長、01年同院副院長。11年7月より現職。

連載の紹介

本田宏の「勤務医よ、闘え!」
深刻化する医師不足、疲弊する勤務医、増大する医療ニーズ—。医療の現場をよく知らない人々が医療政策を決めていいのか?医療再建のため、最前線の勤務医自らが考え、声を上げていく上での情報共有の場を作ります。

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