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医療訴訟は医療ミス削減に寄与するのか

2007/06/27

「沈黙の壁」の著者のローズマリー・ギブソン女史

 6月のある日、日本ペンクラブでNPO法人日本医学ジャーナリスト協会主催の「医療ミス医事紛争―米国における変化と展望」を聴講しました。

 主演者は、ロバート・ウッド・ジョンソン財団のローズマリー・ギブソン女史。ギブソン女史は、「沈黙の壁 Wall of Silence ― 語られることのなかった医療ミスの実像」の著者の1人です。

 まず、その講演の要点を紹介します。

「患者の安全 米国で何が変わりつつあるのか」
◆1999年、米国科学アカデミー医学研究所は、「人は誰でも間違える」という報告を出した。その報告の中では、毎年9万8000人の市民が、米国の病院で“防ぎ得る”医療ミスのために死亡しているとされた。

◆報道の大きな役割は、人々の医療ミスへの関心を高める役割であろう。これはジャーナリストの重要な仕事(一般の人を教育する)である。米国のジャーナリストは、どうしたら医療事故を少なくできるかという視点の報道も、積極的に行うようになっている。こうした報道がメディアの果たす建設的な役割だと思う。

◆医療ミスが起きた後に、患者や家族が求めているものは、以下の4点だ。
 1)間違いが起きたことを隠さずに伝えること。
 2)患者と家族を見捨てず、被害の修復に努めること。
 3)うっかりミスをした臨床担当者の首を切らないこと。
 4)原因を探求して、同じミスの再発を防ぐこと。

◆多くの医療事故の分析から、米国では、救命治療の失敗による死を防止するための緊急対応チーム(※)を立ち上げている。

※緊急対応チーム:最初に報告したのはオーストラリアの医学雑誌。チームは、集中治療室勤務経験のあるベテラン看護師、呼吸器治療療法士と、多くの場合は医師が加わって編成される。院内勤務者は、誰でもこのチームの援助を依頼できる。チームは5分以内に対応する。多くの場合は、看護師がチームに出動を依頼し、チームは患者の病状を診て必要な処置をする。このチームを設置したある病院(735床)では、設置後12カ月内に1092回出動した。その結果、死亡例数は減少し、看護師の離職率も減少した。

◆現在、米国では院内感染が大きな問題となっている。院内感染による死亡は9万9000人に上る。ちなみに、医療ミスによる死亡:9万8000人、交通事故死:4万3000人、乳癌による死亡:4万人、AIDSによる死亡:1万7000人と報告されている。

 政府を含めて、院内感染死亡が増加し大きな問題になっていることに対し、注目し警告することを怠ってきた。医療システムの中には、このような「沈黙の壁」がまだある。しかし最近は、院内感染を防止しようと患者団体が立ち上がり、病院に院内感染防止のための措置を取るように州に働きかけ、法律が制定されるような動きが出ている。中心静脈関連の敗血症が、予防策を講じることで66%も減少することが判明し、減少した状態が15カ月以上も続いているという臨床研究も発表されている。

著者プロフィール

本田宏(済生会栗橋病院院長補佐)●ほんだ ひろし氏。1979年弘前大卒後、同大学第1外科。東京女子医大腎臓病総合医療センター外科を経て、89年済生会栗橋病院(埼玉県)外科部長、01年同院副院長。11年7月より現職。

連載の紹介

本田宏の「勤務医よ、闘え!」
深刻化する医師不足、疲弊する勤務医、増大する医療ニーズ—。医療の現場をよく知らない人々が医療政策を決めていいのか?医療再建のため、最前線の勤務医自らが考え、声を上げていく上での情報共有の場を作ります。

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