前回は、米国の医学部の選抜方法や面接官のマンパワーの充実ぶりについて紹介しました。日本の大学病院の方からすれば、ため息が出る環境ではないでしょうか。今回も、前回に続いて、米アイオワ大医学部名誉教授の木村健先生の講演から、米国の医学部教育から卒後研修制度までをざっと紹介します。
マンパワーの秘密
アイオワ大では、解剖の教授だけで21人いる。それぞれが自分の研究で米国国立衛生研究所(NIH)などから億単位の研究費を得ており、膨大なスタッフの人件費も研究費で賄われている。大学という場所を借りて研究をしている教授がいっぱいいるのだ。また、学生の負担する学費は、4年間で500万~1500万円。卒業までにかかる資金は銀行から借りることは容易で、通常は卒業後、数年で返済可能となる。
内科には、約250人の教授がいる。臨床教授の評価では、論文数は考慮されない。正教授は、この職位に就くには、広く評価される研究論文がなければならない。外科系も27人教授がおり、形成外科、血管外科、心臓外科、小児外科など13科に分かれている。麻酔科は61人の教職がいて、レジデントは40人で、全体で教官と学生の比率は1:1である。日本では2:1以下と聞いている。
米国の大学教育は実務教育
米国の大学教育は、職業訓練所という雰囲気だ。細部まできちっと教える。例えば、胃管を入れる時には、長さの計り方、口に氷の塊を入れてから飲み込ませるなど、実用上の注意点まで教えるのが米国流で、教える方も大変である。
以前は、1年間に多数の科を回る厚生労働省の臨床研修制度案のような研修過程が卒後に準備されていたが、今は学部の教育に入っており、卒後研修はすべて専門研修である。日本の案は、逆行しているか遅れているという感じがする。
卒後教育は医師の協会代表が仕切る
医学部を卒業すると、内科、外科といった専門分野に分かれて卒後研修が行われる。卒後研修には政府は関与せず、医師会が歴史的に関与してきた。研修認定評議会という組織があり、そこで全米の卒後研修方針を決定し、科目や時間数やプログラムまで介入する。全米の2200の研修施設、110科の研修方針はここできまる。
この研修認定評議会は、医師会・病院協会や医学部の学部長の集まりである医科大学協会、専門医を認定する専門医協会などから代表が集まって25人で構成される。