日経メディカルのロゴ画像

政策は力が作るのであって正しさが作るのではない

2007/03/08

 先日ご案内した第41回医療制度研究会が、2月10日に慶応義塾大学商学部教授の権丈善一氏をお迎えして開催されました。講演のテーマは「日本の社会保障と医療」でした。経済学から見た医療、そして社会保障という壮大なお話は、とてもブログ上で一朝一夕にまとめられるものではありませんが、今回は私が特に印象的で勉強になった部分について、感想を書かせていただきます。

1.政策は何が作るのか
 「政策は、所詮、力が作るのであって正しさが作るのではない」(権丈氏)

 今まで、なぜこれだけ医療崩壊が白日の下にさらされているのに、政治や行政の動きが遅いのかと、歯がゆい思いをしてきました。しかし最近、やっと医師不足や勤務医の窮状について国会でも討議されるようになり、日本医師会もその事実を認めるようになりました。その意味で、いかに医療現場(病院や勤務医)の力が不足していたかを思い知らされます。

 「『政治』というものは『力』――ここでは政治家が追加的に投入した政治活動から得られる限界得票数の多寡――が動かしているのであり、そうした『力』が動かしている『政治』が、医療の有り様を決めているということを、医療関係者は理解しておいた方がよいかもしれない」という権丈氏の言葉が印象的でした。

2.投票者の合理的無知
 「投票者は合理的に行動すると公共政策に関して無知になる」(権丈氏)

 確かに、自分や家族が病気になって本当に困った時以外は、多くの人は医療や医療政策を勉強するための時間を、近くのスーパーの肉や魚の値段を調べるのに使った方が合理的でしょう。したがって普通の投票者は、医療をはじめとした公共政策に無知になるのでしょう。ただ幸か不幸か、全国で医療崩壊の問題が噴出しています。医療者がなぜこうなったかを説明する努力を続ければ、投票者も理解してくれる可能性は高いと思います。

 しかし、「まずは、医療関係者が一致団結して、今夏の参議院選に臨むべし。医療をどうしても変えたいのであれば、雨が降ろうが槍が降ろうが、はたまた空からテポドンが降ってこようが、今日の医療崩壊に手を打とうとしない政党には拒否権を発動するしか方法はありません」。これが権丈先生の主張でした(詳しくは、権丈先生が執筆された「勿凝学問64 政治的選択肢がないこの国の不幸せ」 を参照)。

3.なぜスウェーデンのような国が存在するのか
 「スウェーデンは大きな政府が国民に容認支持されやすい歴史を持っていた。彼らは、国民が豊かになるためには経済発展が必要と考え、効率の良い経済を目指した。その結果、スウェーデンは現在、世界でも有数の大企業を持つようになり、これらで雇用される多くの労働者が協力的な労働組合を形成し、力を強めたのである。その結果、経済発展から享受される利益は『社会的賃金』として国民に返還されるようになった。スウェーデンでは日本のように賃上げ闘争のようなことは少ない。彼らの目標は平等や公平なのである」(権丈氏)。

 ここが現在の日本では大問題と感じます。国民の意識レベルがその国のあり方も決めるということなのでしょう。

4.3つの潮流が日本を変えるか?
 「現在、日本では少子高齢化、格差論議、そして医療崩壊が問題となっている。これらが今までの日本人を変えるだろうか?」(権丈氏)

 現在、行われているフランスの大統領選では、市場原理を訴える与党国民運動連合(UMP)のニコラ・サルコジ党首(内相、51歳)と、格差改善を訴える4人の子の母親であるセゴレーヌ・ロワイヤル元環境相(53歳)が激しく争っているようです。日本も、目の前に突きつけられた、これら3つの問題を契機に、今後の国や社会のあり方を考え直すようになるのでしょうか。

5.間接民主主義下の問題
 「現在の選挙は、実際にはいくつもある争点の束を見ることによって政党・政治家を評価するという間接投票。一つの選挙に実は多くの争点が含まれるが、国民はほんの一つの争点についてしか判断できない。そして政治家はこの点をたくみに利用する」(権丈氏)

 確かにその通り。ここがまた頭が痛いところだと思います。

6.再分配政策としての社会保障
 「市場では、賃金・配当利子・地代という所得は、家計が所有する労働・資本・土地という生産要素が社会にどれだけ貢献したかという観点で分配されるもの。しかし、これだけで分配を回すと、種々のひずみが生じるために、政府が家計の必要に応じた必要原則で再分配を始めた。現実に、人生には子育てや教育、また病気になった場合など、支出が膨張したり収入が総体的に減少・途絶したりする時期がある。これを補うのが社会保障だ」(権丈氏)

 このコンセンサスがないから社会保障は無駄という考えも出てくるのでしょう。果たして今後は?

7.経済学の政治的バイアス
 「経済学という学問は、研究を進めていくと、どうしても市場原理を選択する傾向がある」(権丈氏)

 なぜ多くの経済学者が、市場原理を訴えているか理解できました。しかし、あえて言わせていただければ(医療者としての意見かも知れませんが)、経済学の真の目標は、経済の発展により1人でも多くの人が幸福な生活を享受できることではないのでしょうか。

8.今後の日本の展開、国の3つのパターン

著者プロフィール

本田宏(済生会栗橋病院院長補佐)●ほんだ ひろし氏。1979年弘前大卒後、同大学第1外科。東京女子医大腎臓病総合医療センター外科を経て、89年済生会栗橋病院(埼玉県)外科部長、01年同院副院長。11年7月より現職。

連載の紹介

本田宏の「勤務医よ、闘え!」
深刻化する医師不足、疲弊する勤務医、増大する医療ニーズ—。医療の現場をよく知らない人々が医療政策を決めていいのか?医療再建のため、最前線の勤務医自らが考え、声を上げていく上での情報共有の場を作ります。

この記事を読んでいる人におすすめ