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医療制度の日米比較で見えること

2006/11/17

米国の医療に詳しいアイオワ大医学部名誉教授の木村健先生

 前回に続き、第68回日本臨床外科学会の話題です。今回は、学会最終日に行われた特別企画「日本の医療制度への提言」から、米国の医療に詳しいアイオワ大医学部名誉教授の木村健先生のご講演内容の一部を紹介したいと思います。特に医師不足医療過誤について大変示唆に富む内容でしたので、少し長くなりますが、どうぞお付き合いください。

 医師の仕事に専念できる米国
 医師不足は、絶対数と配置の問題の2つがあると思われるが、日米を比較してみたい。

 まずは医師のパフォーマンスについて考えてみよう。2003年にアイオワ大で実施された手術は9万件だったのに対して、日本のある大学病院は5000件。外科医1人の手術件数は米国396件に対し、日本は75件。米国の麻酔医は1人当たり年間1600件、日本は507件の手術を担当する。

 米国でこのような高いパーフォーマンスを支えているのは、医師を補助する人員だ。実際に外科系スタッフ数はアイオワ大が228人、日本は68人(国立大学の定員法による)。このほか医師の口述筆記をするスタッフ、その文章を直してくれるスタッフなど、医師を支える事務などの職員が米国では日本の20倍も存在する。医師は、いわば“タレント”のように、手術など医師としての仕事に専念できる環境が整っているのだ。かたや日本では、秘書を雇っている医師はほとんどいない。日本でも、医師を補助する人を現場に投入することができれば、医師のパーフォーマンスは確実に上がるはずだ。

 また診療体制の違いもある。日本では1人の医師が患者さんを診て、指示を出すという「主治医」制だが、米国では医師が集団として患者さんを診る「チーム医療」だ。主治医制に比べ、チーム医療はパーフォーマンス向上、ケアの基準化、卒後研修プログラムの基準化、医療過誤訴訟の回避(医療水準を保ちやすい)などのメリットが多い。しかし、それを可能にするのは、チーム全員の同意と理解が不可欠だ。クリニカルパスの徹底、カルテ記載法の統一なども必要だが、一番大事なのは、患者さんにチームで診ていることをきちんと説明し理解を得るための患者教育である。

 私は米国から帰国して、日本のこども病院でチーム診療を徹底した経験がある。その結果、年間300例だった手術件数が、医師も病床も増加させないまま12年後には1000例に増加していた。この診療スタイルの差も、日本の医師不足の原因となっていると思う。

 さて、米国の外科医はモーレツに働くが、なぜだろう。それは、米国では医師の知・技・心の価値を認め、正当に報酬を支払っているからだ。自分のパーフォーマンスの価値を認めてもらわないとモチベーションが上がらないのは当然である。しかしこれを日本に導入するには、評価、年俸制、混合診療導入が必要だろう。

医師が医療水準を決める
 「最近、日本では、医療過誤を起こすと警察に捕まる」と聞いて、がくぜんとした。そもそも医療過誤の多くは、医療水準に満たないという理由で罪を問われるものだ。

 福島県で産科の医師が2年前に起きた件で逮捕されたが、医療水準に合致しているか否か不明なのに逮捕されたことは、驚くべきことだ。現在、話題になっている病腎移植も、やってはいけないという明確な規則は現在ないのではないだろうか。

 では日本の医療水準は、いったい誰が決めているのか--政府?メディア?警察?学会?--実は、医療水準は医師が決める以外にない。日本では、この医療水準を決めるという重要なことが、きちんと行なわれてこなかったことが問題だと思う。

 米国は1983年に医師の水準を保つ目的で「卒後医学教育認定評議会」を設置した。同評議会を設置する運動の中心は米国医師会であり、政府に1人の医師を教育するのに年間10万ドル支払うように要求し、これを実現させたのだ。米国ではすべての医師が医師会に加入している。


著者プロフィール

本田宏(済生会栗橋病院院長補佐)●ほんだ ひろし氏。1979年弘前大卒後、同大学第1外科。東京女子医大腎臓病総合医療センター外科を経て、89年済生会栗橋病院(埼玉県)外科部長、01年同院副院長。11年7月より現職。

連載の紹介

本田宏の「勤務医よ、闘え!」
深刻化する医師不足、疲弊する勤務医、増大する医療ニーズ—。医療の現場をよく知らない人々が医療政策を決めていいのか?医療再建のため、最前線の勤務医自らが考え、声を上げていく上での情報共有の場を作ります。

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