
今年の講義風景です。
もう2年以上前のことになります。育児休業中に、ある看護学院の校長先生から、1本の電話が入りました。「来年から、看護学院で微生物学の講義をやってくれないか」という依頼でした。
私は微生物学を専門としているわけではありませんが、快く引き受けることにしました。研修医の頃、「心電図を初めて教えてもらうときは、循環器の先生より、呼吸器の先生にお願いするくらいがちょうどいいよね」と、同僚と笑いながら話していたことを思い出し、「専門ではなく、ちょっとかじった人」としての強みを生かせば、わかりやすい講義ができるかもしれない、と思ったのです。
そこで、昨年から、看護学院の非常勤講師として、1年生向けの講義をスタートしました。
初めて教室に足を踏み入れたときの緊張は、忘れられません。総勢50人の学生さんから、一斉に注目を浴びたので、顔は真っ赤になり、心臓がバクバク鳴り、手に汗をかきました。
「微生物学」というと、細菌やウイルスの名前がたくさん出きて、敬遠されがちな科目だろうな、と予想していました。そこで昨年は、「国家試験に出るレベルで、わかりやすく説明すること」を目標にしました。微生物学のドリルに目を通し、それに応じてパワーポイントを作り、講義に臨みました。
しかし、どんなに簡単でわかりやすいスライドを作っても、必ず何人かは、居眠りをする学生さんがいました。起きている学生さんたちも、どことなくぼおっとしていて、手持ち無沙汰な様子。「どうしたら魅力的な講義になるのかなあ」と、ずっと悩んでいました。
そんなある日、アレルギーをテーマに講義をしたときのこと。I型からIV型のアレルギー分類を説明しようとして、この複雑な過程をどう説明しようかと逡巡し、私は、半ばやけくそで、チョークを手に持ちました。
「今から、4コマ漫画で、説明します」
「ほら、まず異物が入って来ると、IgEっていう抗体ができるでしょ。このIgEは、肥満細胞という細胞にくっついて、スタンバイしてるわけ。それで、もう一度同じ抗原が入ってきたら、抗原は、また同じように、肥満細胞に乗っているIgEにくっつくんです。そしたら、スイッチオン! 肥満細胞から、ヒスタミンが出るんですよね。血管が膨らんだり、粘膜が腫れたりして、蕁麻疹や気管支喘息が起こります。これが、I型アレルギーの反応です」――。
黒板に漫画を描いて説明しながら、振り向いたとき、びっくりしました。学生さんたちの顔つきが、興味津々といった様子で、それまでとはまるで違って見えたのです。気を良くした私は、IV型アレルギーまで、すべて4コマ漫画風に説明しました。結局、この講義では、寝る学生さんは、いませんでした。