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いざ、職場復帰。何かが違う…

2010/03/03
引地悠

今年も娘の健康を祈って、お雛様を飾りました。

 2010年の幕開けとともに、1年間の育児休業が終了しました。わが事ながら、娘の誕生から1年もの年月が過ぎたという事実に驚き、受け入れるのに多少時間がかかりました。初めての育児に悩み、苦しみ、悶々としていた時間が多かったのですが、目の前の娘の輝かしい成長を目にすれば、これまでの苦労が跡形もなく消えるほど、すがすがしい思いがしました。

 上司に復帰後の勤務体制について希望を伝えたのは、復帰予定の3カ月ほど前。本当に恵まれていると思うのですが、希望を最大限に受け入れていただきました。しばらくは週30時間の短縮勤務で、外来業務に専念し、夜間や休日の出勤を免除してもらう形で、勤務できることになりました。

 職場復帰する前月には、娘の保育所入所の準備をするかたわら、仕事に向けてのイメージトレーニングを重ねました。内科外来での診療風景を思い描き、様々な主訴で来院される患者さんを想定し、鑑別診断のための質問や、確かめるべき身体所見、オーダーしたい検査所見などを頭の中でなぞり、架空の患者さんの“診療”に没頭しました。あいまいな知識や、救急対応の手順は教科書で確認をしました。それでも、もちろん、1年間のブランクは想像以上にきついものだろうと覚悟をした上で、いざ、職場復帰のときを迎えました。

 久しぶりの白衣。パリッとアイロンがかかっているのが妙にうれしかったです。聴診器を右手につかみ、足早に病院の中を歩くと、たくさんの方から声を掛けていただきました。「あれ、久しぶり!復帰したの?」「出産おめでとう」「赤ちゃん、もう1歳になったんだ。早いねえ」「また、よろしくね」――。一言、一言がじんわりと温かく、心に響きました。

 さあ、いよいよ仕事開始です。診察室のパソコンに向かい、自分のIDを打ちこみました。ところがログインできません。もう一度、8桁の数字を打ち込みました。やはり「IDが正しくありません」とパソコンから親切な表示が…。慌ててメモ書きを探し出し、正しいIDを確かめたところ、全く違う数字で、あぜんとしました。私が懸命に思い出した数字は、前の職場のIDだったようです。

 さすがに、自分のPHS番号は忘れてないだろうと思いましたが、これも完全に間違って思い出しました。やはり前の職場のPHS番号が頭に浮かんでしまったようです。このときばかりは、浦島太郎の気分になりました。

 自分の記憶ほど恐ろしいものはない、と肝に銘じ、気を取り直して、診察を始めました。いつも通り、患者さんを迎え入れ、「こんにちは、今日はどうされましたか?」と口にした瞬間、自分が生き生きとしているのに驚きました。患者さんとの他愛ないやり取りが、非常に新鮮で、うれしく、楽しいのです。

著者プロフィール

引地 悠●ひきち はるか氏。2004年宮崎大卒後、洛和会音羽病院(京都市)にて初期研修2年、後期研修1年。07年4月中通総合病院(秋田市)総合内科で後期研修。09年1月に第1子を出産し、10年1月に復職。

連載の紹介

引地悠の「仕事と育児のベストバランスを求めて」
「結婚して子供を産んでも、臨床や研究の第一線から退きたくない」と考えていた引地氏。2009年1月に第1子を出産し、育児休業を1年間取得後、2010年1月に復職しました。新米ママ女医として盛りだくさんの日常をつづります。

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