
遅咲きの八重桜。秋田では5月下旬に満開になります。この時期、つわりでつらかったのですが、そのつらさを忘れて見入っていました。
女性医師が妊娠して、勤務において真っ先に直面する最大の難問は、当直ではないでしょうか。
私が勤務する病院の時間外診療は、午後5時から午後10時までは夜間外来、午後10時から翌朝8時までは当直がぞれぞれ担当します。夜間外来は、内科系、外科系のベテランの先生が一人ずつ担当し、当直は主に卒後1~2年目の研修医と3年目以上の若手医師が担当します。当直医は、救急外来で初期診療を行いますが、専門科にコンサルトが必要な場合には、各科の拘束医に連絡を取り、診療をお願いするシステムになっています。
私はもちろん、当直要員でした。当直は月に3回だったので、かなり余裕がありますが、加えて月に5~6回の拘束当番が加わります。拘束当番の夜は、大抵1度は呼び出されて病院に駆け付け、急変や入院対応に追われるので、普通の体調のときでさえ負担に感じていたことは確かです。
つわりが始まった妊娠2カ月のころから、悪心・嘔吐に加え、眠気はあるのに熟睡できない状態になりました。その日の疲れがとれないまま、翌日の朝を迎え、さらに新たな疲れが積み重なる日々が続きました。このまま夜間の業務を続けることができるだろうか、と不安になりつつも、なかなか「当直を免除してほしい」とは言い出せませんでした。それには理由がありました。
私が、研修医として働いていた独身時代。当時、同僚の女性医師から「妊娠したので当直を代わってほしい」と頼まれたことが何回かありました。正直なところ、全くの善意だけで当直を引き受けたとは言えなかったのです。
同じ女性として、妊娠中の女性をいたわって協力してあげたいという願望と同時に、「私だってギリギリでやっている。私の体調も気に掛けてほしい」と、誰とはなしに訴えたい気持ちを、捨てきれませんでした。
通常の当直業務だけでも負担に感じているのに、さらに肩代わりすれば、それだけ自分の時間が削られるため、心と体の調子を崩さないように、もう一工夫が必要です。私は、自分が健康な体質であり、食事、睡眠、排泄が保証されれば、どこまでも働くことができると自負していたものの、やはり周囲からの「いたわり」を求めてしまうのです。それは、たった一言の「大丈夫?」という言葉で十分でしたが…。