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その「働き方改革」は本当に上手くいきますか?

2017/10/27
裴 英洙

 疲れた…、そろそろ辞めたい。

 私の連載のことではない。

 今年74歳になる、ある病院理事長の言葉だ。病院経営の最前線で陣頭指揮を取り、さらに外来診療や入院患者もしっかりと診るスーパードクターだ。しかし、冒頭の言。社会的使命感と職員を守る強いリーダーシップの下、自ら鞭打ち続けた老体はボロボロになってきている。筆者は仕事柄、全国の医療機関を回り、多くの医師と話す機会がある。マネジメントの話がある程度終わると、雑談が始まる。その雑談の中に、ポロリポロリと本音がこぼれ始める。

 「疲れた」「眠れない」「疲れが取れない」「気分がすっきりしない」との健康上・体力上の悩みがあふれ出てくる。筆者が勤務医として働いていた病院でも心身不調で戦線離脱する医師を多く見てきたが、医師不足・偏在が叫ばれる中、我が身を削って臨床現場に立っている医師も大勢いるだろう。少ない人数で回している現場から1人でも医師が心身不調で倒れると、残された医師にもまた負担が乗っかり、離脱予備軍となっていく。まさに、医療現場は“疲労現場”と言っても過言ではない。

 では実際、医師はどれくらい“疲れて”いるのだろうか?

 『勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査報告書(日本医師会、平成28年6月)』を見てみよう。これは、勤務医約8万人から無作為に抽出された勤務医1万人に対して実施された調査である。まず、5人に1人以上が、「自身の健康について、健康でない、または不健康」と回答している点に目が行く。また、「他の医師への健康相談あり」は55.1%と半数以上の医師が医師に相談している実態だ。さらに、平均睡眠時間5時間未満(当直日以外)が9.1%、当直日の平均睡眠時間4時間以下が39.1%、と十分な睡眠を確保できずに多くの医師は頑張っている。そして、「自殺や死を毎週/毎日具体的に考える」割合は3.6%、「メンタルヘルス面でのサポートが必要と考えられる中等度以上の抑うつ症状を認める者」は6.5%となっている。さらに、勤務状況と各アウトカム指標のクロス集計からは、当直中の睡眠時間が短いほど死や自殺についての考えを持つ割合が高い、との結果も明らかになっている(表1)。睡眠不十分の中、働き過ぎでメンタル不調を来しやすい職場環境が浮き彫りとなっている。

著者プロフィール

裴 英洙(ハイズ(株)代表取締役社長)●はい えいしゅ氏。1972年生まれ。金沢大学大学院医学研究科修了。外科医・病理医として勤務後、MBAを取得し2009年に起業。医業経営コンサルタントの仕事の傍ら、再建先で臨床医として医療現場に携わる。

連載の紹介

裴 英洙の「今のままでいいんですか?」
医療機関の経営問題を解決しないと、医師が意欲を持って働けない—。そんな危機感からMBAを取得し、コンサルティング会社を設立した異色キャリアの医師。これまでの経営支援の経験から、病医院で見過ごされがちな問題やエピソードを語ります。
裴英洙氏による書き下ろし!
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