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響き渡る医師の怒号、委縮する患者…あなたならどうする?

2012/08/02

 病院の廊下に怒号が響き渡っていた。勤続30年の副院長の二階堂医師が、研修医の山田を叱責している声だ。看護師が診察室のドアを閉めたが、相変わらず大声が響き渡っている。30分が経過した時、患者が「あの…もうそろそろ帰ってもいいですか?」と萎縮しながら尋ねた。

 「そうですね、お大事に」と二階堂は優しく声をかけた後、山田の方に向き直り、「なんでこんな初歩的なことに気付かない!? きちんと患者さんの方を見ているのか!」と説教を再開した。二階堂はいったん感情的になると、30分以上は怒鳴り続けることで有名だ。

 二階堂が、自分の専門である外科病棟を訪れた時、看護師の佐々木が他院宛ての紹介状を手配しているのに目を留めた。「うちで手術をすればいいじゃないか。なんで手術しない?」と二階堂が聞くと、佐々木は「水谷診療部長が『医長が体調を崩して休んでいる上に、産休に入った医師がいるので、通常の8割のペースで手術をこなす』とおっしゃっていました」と答えた。

 顔を紅潮させながら、二階堂は「紹介状なんて出すんじゃない! 2人いないからなんだ! 残った人間でカバーするくらいのパワーを出せないで、それでも外科医か! 通常のペースに戻しなさい」と大声を上げた後、病棟を後にした。

 看護師の佐々木は、封を閉めようとした紹介状を取り出し、水谷診療部長に電話をかけた。「副院長が、紹介状を出さないで、通常と同じペースで手術をこなすように指示を…」と切り出すと、水谷はすぐさま佐々木の話を遮って言った。「2人足らない状態で通常ペースの手術をこなすなんて、戦時中でもあるまいし、医療事故が起こったらどうする? 彼は副院長だが、現場の責任者は僕だ。僕の言うことを聞いていればいい!」とまくし立て、一方的に電話を切った。

 佐々木はPHSを握りしめながら、昨年赴任した大谷院長に電話をかけようとして、やめた。院長にはこのような事態を何度も報告していたが、この半年間に何も良くなっていないことに気付いたからだ。午後に再び二階堂が病棟に来るのを想像しながら、「今日はついてないな…」と深くため息をついた。

 

著者プロフィール

裴 英洙(ハイズ(株)代表取締役社長)●はい えいしゅ氏。1972年生まれ。金沢大学大学院医学研究科修了。外科医・病理医として勤務後、MBAを取得し2009年に起業。医業経営コンサルタントの仕事の傍ら、再建先で臨床医として医療現場に携わる。

連載の紹介

裴 英洙の「今のままでいいんですか?」
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