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365日、戦えますか?

2012/01/24

 「365日間戦える組織をつくってよ」

 ある医療法人の経営者から、こんな依頼をされたことがある。こういうセリフを医療スタッフが聞くと、「これ以上、医師が働かされるのか!」「看護師やコメディカルの人権を侵害している!」と非難の声を上げそうだ。ただ、今回のテーマは「リハビリテーション」(リハビリ)に関するもので、救急対応などに関する話じゃない。

 東北地方のある医療法人は、回復期や療養型に大きくシフトした病院経営をしている。その病院から2年前の2010年に「365日リハビリが提供できる組織にしてほしい」という依頼を受けた。その狙いは大きく2つあった。

 1つは、「患者の身体機能を早く元通りにする」というリハビリ本来の目的の実現。ここでのポイントは、元通りに身体機能が回復することに加えて、「1日でも早く」という時間的な要素があることだ。その医療法人の経営者は「私が交通事故で脚が思い通りに動かなくなったとしたら、1日でも早く治して愛する妻の元へ戻りたいと思う。そのためには、間を置かず毎日リハビリをしたい。全ての人が私のように思わないかもしれないが、患者様が毎日リハビリをできる“選択肢”を用意することが大事だと思う」と私に話した。多少のノロケが入っていたことも含めて、その経営者の意見に私は大いに納得した。

 もう1つの狙いは、病院収益の向上。2010年度診療報酬改定では、土日祝日も含め365日のリハビリを提供した場合に診療報酬が加算されることになった。患者にとってメリットがあり、しかも病院経営にとってもプラスであれば、やらない手はない。だが2年前の当時は、周りを見渡しても、365日リハビリ体制の病院はまだ少なかった。なぜかと言うと、多くの場合、現場が反発するからである。

看護師の3分の1が一斉退職
 病院経営者にとって最も怖いものの一つが、現場で働く医師や看護師・コメディカルたちが、そろって反発することだ。私がこれまでコンサルティングを担当した病院の中には、「以前、ある経営策を実行しようとしたら、看護師が反発して全体の3分の1に当たる80人が辞めてしまった」というケースがあった。また別の病院では、「麻酔科長を他の病院から招いてトップに据えたら、麻酔科医が全員辞めてしまった」と経営企画室長が頭を抱えていた。

 一般企業でも、部署ごと社員が引き抜かれる例がないわけではないが、医療機関の場合は同じ専門職のスタッフのまとまりが良い半面、組織への忠誠心がそれほど高くないせいか、一度に集団で辞めてしまうケースが比較的多い気がする。だからこそ、その医療法人の経営者は「できるだけ穏便に365日リハビリの必要性をスタッフに納得させ、一枚岩の組織をつくってほしい」と依頼してきたわけだ。

 まず我々は、リハビリスタッフや病棟の看護師、医師など全職員を対象にした勉強会を開催した。私が講師となり、主に以下の3つについて説明した。
(1)当該地域におけるリハビリの実施機関の不足状況
(2)毎日リハビリを利用できることが、患者にとってどのくらい有益なのかを示した科学的・医学的な根拠
(3)365日リハビリを実施する場合のさらなるチーム医療推進の重要性

 勉強会で特に力点を置いたのが(2)だ。医療スタッフが一枚岩の組織になるための共通言語は「患者のため」しかない。企業でも同じだが、会議で各部門が自らの利益だけを主張し始めた場合、その場を収めることが難しくなる。自部門の利益ではなく顧客視点(=患者視点)で議論すれば、おのずと解は1つに集約されていく。

「365日リハビリは不安じゃない?」と声かけ
 さらに、もう1つ仕込んでおいたことがある。担当事務部長にお願いして、リハビリの関係者一人ひとりに戦略的な水面下交渉をお願いしたのだ。いわゆる“根回し”だ。一般的に医療機関に新しいルールや制度を取り入れる場合、職員を対象に講演会や説明会を開き、掲示板にプリントを貼るだけというケースが多い。少々まめな医療機関でも、各職員にプリントを配る程度だと思う。だが、これではスタッフ側が「詳細が分からないので、とりあえず反対」という態度を取る恐れがある。

著者プロフィール

裴 英洙(ハイズ(株)代表取締役社長)●はい えいしゅ氏。1972年生まれ。金沢大学大学院医学研究科修了。外科医・病理医として勤務後、MBAを取得し2009年に起業。医業経営コンサルタントの仕事の傍ら、再建先で臨床医として医療現場に携わる。

連載の紹介

裴 英洙の「今のままでいいんですか?」
医療機関の経営問題を解決しないと、医師が意欲を持って働けない—。そんな危機感からMBAを取得し、コンサルティング会社を設立した異色キャリアの医師。これまでの経営支援の経験から、病医院で見過ごされがちな問題やエピソードを語ります。
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