日経メディカルのロゴ画像

タオルと軍手とマスクと理事長

2011/12/14

 ある病院の理事長から、赤字経営の立て直しを求められたことがある。私は当社の副社長と2人で病院を訪れ、開口一番、「大掃除をしましょうか?」と切り出した。

 私 「理事長、大掃除しましょうか?」
理事長「はっ!? ああ、不要な人材のリストラですね」
 私 「いえ、院内をキレイにする方の大掃除です」
理事長「雑巾がけとか、窓ふきとかの大掃除ですか?」
 私 「ほうきで掃いたり、ゴミを捨てたりの大掃除です」

 当社が医療機関をコンサルティングするとき、まずチェックするのが財務諸表。次に行うのがスタッフへのヒアリングで、その際に施設内をくまなく巡回するようにしている。整理整頓がどのくらいできているのかを確認するためだ。

 依頼を受けたその病院の院内を見ると、明らかにモノが多すぎた。壊れている内視鏡の洗浄機、使っていない心電図、現場では使用しないトレッドミル…、とにかく不用品が多いのだ。さらに在庫管理も徹底されていない。A3用紙は棚を埋め尽くすくらいあるのに、なぜかA4用紙がなかったり、何人が尿をすれば使いきれるかというほど、尿コップが山積みになっていたりした。それらが通路を防いで、片隅にある職員の休憩スペースを圧迫していたのだ。

昔は忘年会・温泉旅行、今は大掃除!
 この病院を手っ取り早く黒字化するには、5Sがいい。5Sとは、製造業やサービス業でよく用いられる言葉で、整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ)の頭文字を取ったものだ。整理とは、「必要なモノと要らないモノを区別して並べること」で、整頓とは「整理したモノを分類して、必要なときに取り出しやすくすること」。きちんと整理され、棚にしまわれていても、使うたびに全てのモノをどかさないといけない状態では意味がない。整頓が行き届いている組織であれば、何か問題が生じても、迅速かつ正確に対策が打てるようになる。

 この5S活動のスタートにうってつけなのが、ほかならぬ「大掃除」なのだ。病院再建など、組織を大きく改革するプロジェクトを始めるときには、「成功体験」とスタッフ同士の「コミュニケーションの活性化」が肝心である。プロジェクトの初めに目に見える成果が出れば、それ以降は当然、スタッフにやる気が生まれる。病棟や職種の垣根を越えてコミュニケーションが活発になれば、今まで想像もしなかったアイデアへと昇華することがある。大掃除をすれば、すぐ目に見える効果が出る上に、スタッフ同士の交流も生まれるのだ。

 20年前なら、「大忘年会」や「温泉旅行」などを通じて、縦割り組織に横串を刺す交流ができたかもしれないが、今はそうはいかない。定期的に「全職員を対象とした飲み会」を開いている病院・クリニックもごくわずかだろう。大掃除は、組織を横断するコミュニケーションができる数少ない機会になるし、全員で一斉に大掃除すると、「今日から変わるんだ!」という意識も芽生える。しかも、適度に体を動かして汗をかくことは気持ちがいいし、医療施設内がキレイになるのは何よりもうれしいものだ。

 大掃除にはそれ以外にも、不要なモノを確認するのに時間がかからないという実利的なメリットもある。医師が邪魔だから何気なく置いたものなのに「先生自ら移動させたのだから重大な意味があるに違いない」と周りが勝手に思い込んでしまうことは意外に多くある。また、使うアテがないモノが、「もったいない」という理由だけで処分されないケースも珍しくない。実際、昔のソフト「Windows2000」を搭載した使われていないパソコンを処分しようとしたところ、購入した医師から、「あれは当時40万円もして、まだ減価償却が終わっていない。使わないけど捨てられない」と言われたこともある。その点、大掃除でスタッフが全員集合していれば、要・不要の確認がわずか数秒で済むし、所有者が不明な物は病院管理者などトップの権限で処理できる。

「あなたがトップです。率先してキレイにしてくださいね」
 大掃除にはそれなりに事前準備が必要だ。その病院では、当日までに何度も関係者とミーティングを開き、適正な在庫量の把握、減価償却済みリストの作成、不要品の抽出をした。また、エリアごとに責任者を任命し、外来スペースは担当医師、職員休憩室は看護師長といった具合に、職員一人ひとりに担当を割り振った。「不要品置き場」「モノの一時避難場所」「処分に迷うもの置き場」などを事前に決めておくことも重要になる。

著者プロフィール

裴 英洙(ハイズ(株)代表取締役社長)●はい えいしゅ氏。1972年生まれ。金沢大学大学院医学研究科修了。外科医・病理医として勤務後、MBAを取得し2009年に起業。医業経営コンサルタントの仕事の傍ら、再建先で臨床医として医療現場に携わる。

連載の紹介

裴 英洙の「今のままでいいんですか?」
医療機関の経営問題を解決しないと、医師が意欲を持って働けない—。そんな危機感からMBAを取得し、コンサルティング会社を設立した異色キャリアの医師。これまでの経営支援の経験から、病医院で見過ごされがちな問題やエピソードを語ります。
裴英洙氏による書き下ろし!
『医療職が部下を持ったら読む本』
好評発売中

 現場でバリバリと臨床業務に携わってきた皆さんが、「来月から診療科長よろしく」と急に言われたら、どうしますか?
 本書は、診療科長、看護師長といった病院の中間管理職や、診療所の院長など「部下を持ったばかりの医療職」に求められる経営・マネジメントの基本スキルをまとめました。「カリスマ医師に経営陣が強く言えない病院」や「医療部門と事務部門に壁がある組織」など、医療現場ならではの20の事例を題材にしており、実践的な知識が身に付きます。
(裴英洙著、日経ヘルスケア編、日経BP社、2400円税別)

この記事を読んでいる人におすすめ