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求ム!! カネに詳しい「第4の医師」

2011/10/27

 「医療系ベンチャー企業」(≒バイオベンチャー)と聞いて、どのようなイメージを抱くだろうか? 白衣を着た大勢のスタッフがたくさんの最先端の機器と薬品に囲まれながら研究している、あるいは大がかりなクリーンルームの中で精緻な機械を使って細胞を加工しているイメージだろうか?

 創業時から規模が大きいバイオベンチャーもないわけではないが、そんな例は恐らく全体の数%にも満たない。大手のバイオベンチャーを除くと、ほとんどは小さな研究室(らしき部屋)あるいは小さなオフィスの一画で、数人が働いているのが現状だ。クリーンルームや最新の機械はコストがかかり、初期投資が数千万~数億円になることも珍しくないが、最初からそのような巨額の投資を行うのは大きなリスクである。だからこそ、ほとんどのバイオベンチャーは小さな研究室からスタートするのだ。

 にもかかわらず、医師が独立して始めたバイオベンチャーほど、初めに膨大な投資をしてしまう傾向がある気がする。

「医者でMBAなんてゴロゴロいます」
 少し前になるが、あるバイオベンチャーを創業した医師が、金策尽きて、当社にアドバイスを求めてきた。そこは、設立して間もないにもかかわらず、かなりの設備を整えて数多くの人が働いていた。もともと外資系の医療関連企業にいたベテラン検査技師を社長に迎え入れて、年俸1000万円以上を払っていたが、毎月の売り上げは厳しいものであった。

 社長は月に何度も東京に営業に行くものの、どこで何をしているのか誰にも報告しないという。「IPO(株式公開)をするには、最初は細々とやるのがエエんですわ。エエもんを作っておったら、いつか誰かが見つけてカネを落としてくれるもんです」というのが、関西生まれの彼の口癖だったそうだ。

 私が社長に初めて面会したとき、創業者の医師は「ハイさんは医師でMBAを取り、医療系コンサルティング会社を経営しているのですよ」と私のことを紹介してくれた。すると社長は挨拶もなく、いきなり第一声で「医者でMBAなんてゴロゴロおるんですわ。うちのカミさんもMBAです。誰でも取れるんですよ」と言い放った。予想外の先制パンチを食らい、返答に窮した私…。で、どう対処したかは、また後ほど。

 とりあえず、会社の経営状態について見てみると、利益はほとんどなく危機的な状態だった。社長をはじめとするスタッフの人件費が売り上げの数倍にも及び、設立時の設備投資に伴う負債が重くのしかかっていた。さらに、東京のコンサルタントを雇っており、その経費もかなりのものだった。コンサルタントは毎月来ていたが、特に何をするわけでもなく、「順調にIPOに向かっています」と話しているだけだった。

 さらに突っ込んで、資本金や借り入れの状況、株主構成などを確かめようとしたところ、そこで問題が発生。会社の重要書類一式全てをそのコンサルタントに預けたまま返してもらえないという。私が「(重要書類)の預り証を裁判所に持っていけば返してもらえますよ」と言うと、「信頼していたので、そういうものは取り交わしていません」と医師。忙しさのあまり、社長に事業運営を任せっぱなしにしていたことも一因だった。

 結果的には、その社長に退任してもらい、東京のコンサルタントとの契約を打ち切り、数々のIPOを手掛けてきた信頼できる人物に次の社長をお願いすることにした。その新社長からは「今期はどうやら黒字になりそうだ」との連絡を頂き、ほっとしている。

医師もおだてりゃ機器を買う?
 創業する際に初期投資を抑えると、当然ながら経営リスクを低くできるが、設備投資の是非の判断は非常に難しい。ただ、初期投資に比べれば、少なくとも人件費を抑えることはまだ容易だ。経営者ならば、夢の実現のためにしばらく自分の給与を削って苦汁をなめる生活をするのは仕方がないし、そんな状況を受け入れられない人は経営者になるべきではないと思う。

 また、IPOの要件は色々あるが、「経営の健全性」「事業の成長性」は欠かせない。経営状態が良いのはIPOの必須条件であり、ニッチ(隙間)分野であっても、限りなく事業規模が大きくなる領域でしかIPOの実現は難しい。

著者プロフィール

裴 英洙(ハイズ(株)代表取締役社長)●はい えいしゅ氏。1972年生まれ。金沢大学大学院医学研究科修了。外科医・病理医として勤務後、MBAを取得し2009年に起業。医業経営コンサルタントの仕事の傍ら、再建先で臨床医として医療現場に携わる。

連載の紹介

裴 英洙の「今のままでいいんですか?」
医療機関の経営問題を解決しないと、医師が意欲を持って働けない—。そんな危機感からMBAを取得し、コンサルティング会社を設立した異色キャリアの医師。これまでの経営支援の経験から、病医院で見過ごされがちな問題やエピソードを語ります。
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