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そんな満足度調査なら、いっそやめてしまおう

2011/09/22

 これまでの2回の連載では、私が医業を一旦休止して実業界に身を投じた理由について述べた。第3回以降では、多くの病院が抱える経営問題を取り上げ、自分自身が経験したケースを基に、その対処方法を紹介していこう。

コンサルタント=失業者??
 私の職業は、医療機関向けの経営コンサルタントだ。コンサルタントという言葉はよく耳にするが、一体何をする職業なのかよく分からない方も多いだろう。実際、私がある医学部の学生向けに講義をしたとき、「今はコンサルタントをしています」と自己紹介したら、「そんな得体の知れない職業で、よくメシが食えますね?」と鋭い質問が飛んできた。

 不覚にも「自分でもそう思う」と返答してしまったが…(笑)。

 コンサルタントに対する見方は、米国でも微妙らしい。ビジネスマンに「私はコンサルタントです」と自己紹介すると、「ああ、職を探しているんですね?」と同情されることもあると聞く。そのくらい「コンサルタント」という職業には、有象無象が多いらしい。

 誤解のないように言っておくが、弊社メディファームはきちんと仕事をしている。改めて宣言するほどのことではないが(笑)。メーン業務は、病院からの経営相談に対する解決のアドバイス。時には再び白衣を着て診療しながら、現場の目線で病巣をあぶり出すことを得意とする。

 医療経営においては、「医薬品などの在庫の管理がうまくいかない」「手術室のオペレーションを改善したい」「人事考課制度を見直したい」「診療科間のコミュニケーションがうまくいかない」――など、様々な悩みがある。こういう経営問題を現場目線で解決できる人材はまだまだ少ない上、適材がいたとしても組織の一員ゆえに口を出しにくいものだ。そんな場合、我々のように、医療のことが分かる外部の人間だからこそ言いやすいこともある。

 今回は、医療スタッフ向け満足度調査について取り上げてみよう。職場環境に対するスタッフの意識を探るためにアンケートを行う病院は多いが、無記名で書いてもらうと回収率は下がり、記名式で書いてもらうとスタッフから本音が出づらくなり、いつまでたっても職員のニーズや不満を汲み取れない。結果的に、職場環境の改善も進まないということになる。

満足度4.25と4.17の差は?
 地方にあるA病院は、病床数1000床クラスの中核医療機関。スタッフの数が数百人にも及ぶその巨大組織の大半を占めるのは看護師だ。この看護師たちが、離職率を下げるために毎年膨大な量のアンケートを含む調査を行い、現場レベルで改善を進めるなど、涙ぐましい努力を重ねてきた。そのリーダーとなる副師長から、私は相談を持ちかけられた。

「職務満足度の0.08点の意味を教えてほしい」
「はぁ?」
 まず、何の話をしているのか分からず、心の中でこうつぶやいた。

 詳しく話を聞くと、毎年約30項目からなる職務満足度調査をしているという。各項目5点満点で、項目ごとに平均点を出していた。その総合平均点が昨年は4.17点で、今年は4.25点。質問は、「0.08点の違いは分かるが、意味が分からない」というのだ。
 
 以下は、私と副師長とのやり取り。
私「そもそも、何のためにこの満足度調査をしているのですか?」
副師長「分かりません。私も前任者から引き継いだだけなのです。もう18年も続けているので」
私「『あなたは福利厚生に満足していますか?』という設問の、『大変満足』と『大体満足』の違いは?」
副師長「それも分かりません。感覚的なものじゃないでしょうか?」
私「福利厚生の満足度を聞いて、次の年に何をするのですか?」
副師長「結果を聞いて一喜一憂しているだけで何もしません。第一、プロジェクトメンバーの看護師が集まっても、全体の福利厚生を見直す権限はないのです。病院長にも報告していますが、それによって何かが変わったということもないです」
私「この集計の意味は何ですかね。昨年は4.17点で今年は4.25点という違いを出して、その意味はあるのでしょうか?」
副師長「それ、私の質問と同じです」

著者プロフィール

裴 英洙(ハイズ(株)代表取締役社長)●はい えいしゅ氏。1972年生まれ。金沢大学大学院医学研究科修了。外科医・病理医として勤務後、MBAを取得し2009年に起業。医業経営コンサルタントの仕事の傍ら、再建先で臨床医として医療現場に携わる。

連載の紹介

裴 英洙の「今のままでいいんですか?」
医療機関の経営問題を解決しないと、医師が意欲を持って働けない—。そんな危機感からMBAを取得し、コンサルティング会社を設立した異色キャリアの医師。これまでの経営支援の経験から、病医院で見過ごされがちな問題やエピソードを語ります。
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