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あれから10年、震災で出会った一生の友

2021/03/10

左から下川薬局の林田氏(左)、虎、東病院の隈部氏(右)

 東日本大震災から10年が経つ。当時は私も、2011年4月末から約1週間、日本プライマリ・ケア連合学会の東日本大震災支援プロジェクト(PCAT)の医療支援に参加した。その時、印象深かった思い出の1つが林田貴氏との出会いである。東北の医療支援に参加することが決まったころ、病院の受付から連絡があった。

 「院長(当時)に面会したいという薬剤師の林田様が来られています」

 東北の被災地へ何を持って行くか、出発の準備を始めようとしていた時である。はて、薬剤師の林田と聞いても、私には思い当たる節がない。営業か何か、怪しいものではないかといぶかしがりながら、病院の受付に向かった。そこに立っていたのは、怪しそうなほほ笑みを浮かべた男だった。

 「突然お邪魔してすいません。東先生のブログを見て来ました」

 このブログを読んで来たと聞いて、ますます怪しいと思いながら、とにかく話だけは聞こうと事務室に案内した。すると林田氏は突然、思いがけない要望を口にした。

 「僕も東北に連れていってください!」

 いやいや、ちょっと飲みに連れていくのとは訳が違う。医療支援とは言え、被災地では連日余震も続き、依然としていつ何があるか分からない状況だ。見ず知らずの男を、命がけの東北に連れていく訳にはいかない。即答することもできず、戸惑ったというのが第一印象だ。

 しかし、話が進むうちに、その怪しい男の正体が見えてきた。林田氏は、熊本県内で調剤薬局14店舗、ドラッグストア9店舗を展開する下川薬局の薬剤師であった。下川薬局は、薬剤師による在宅医療、高齢者施設への訪問販売なども幅広く手掛けている。当然私も、何度も日用品など買いにお世話になっている。そこで、私は林田氏に言った。

 「林田先生、最初に『下川薬局の林田です』と言ってくださいよ」

 彼は「エヘヘ」と笑いながら、「会社としてお願いに来た訳じゃないですから」と答えた。それから林田氏との長い付き合いが始まった。下川薬局の代表取締役社長である下川泰氏は、熊本高校の先輩であり、公私にわたってお世話になっている。

 私は林田氏に、「下川社長には東北に行くことについて許可をもらったのか」と尋ねた。すると林田氏は、「ああ大丈夫です。今度社長も連れて挨拶に来ます」と言うではないか。たった1人の社員が被災地の医療支援に参加するというだけで、社長まで挨拶に来るとは、やっぱり怪しい。

 しかし翌日、林田氏は本当に下川社長を連れてきた。話をする中で、林田氏は社長の右腕であることが分かり、下川社長からも「くれぐれもよろしく」と頼まれて一緒に医療支援に行くことが決まった。

著者プロフィール

東謙二(医療法人東陽会・東病院理事長兼院長)●あずま けんじ氏。1993年久留米大卒。94年熊本大学医学部第2外科。熊本地域医療センター外科などを経て、2000年東病院副院長。03年より現職。

連載の紹介

東謙二の「“虎”の病院経営日記」
急性期の大病院がひしめく熊本市で、63床の病院を経営する東謙二氏。熊本市の若手開業医たちのリーダー的存在でもある東氏が、病院経営や医師仲間たちとの交流などについて、ざっくばらんに語ります。
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(東謙二著、日経メディカル開発、2700円+税)

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