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未知のウイルスより、宇宙人より、怖いのは人間

2020/03/17

 人間とは未知のものに対して恐れを抱く生き物である。

 かくいう私もそうだ。宇宙は広すぎて分からない。こんなに広いのなら、宇宙人もいるに違いない。身長30mの巨大なタコみたいなヤツが、大きな宇宙船に乗って地球を侵略してきたら、と考えるだけでも恐ろしい。その時のために人類は核兵器を……。

 でも待てよ……。もし30mではなく、30cmの宇宙人なら怖いかな。熊本の天草では、よく30cmのタコが獲れる。もしかして、核兵器じゃなくて金槌ぐらいで戦えるかもしれない。

 今、世の中は未知のウイルスで恐怖に慄いている。しかし、新型コロナパニックの前に、マスクパニックが日本中で起きている。テレビに出ている感染症の専門家さえ、マスクの有用性についての意見は分かれているが、ウイルスはマスクの網目よりはるかに小さいので、マスクでウイルスの通過を完全に防ぐことはできない。感染対策をかじった人であれば異論はなかろう。

 ただ、問題はこの先だ。テレビで感染症の専門家が、「マスクには一定の予防効果がある」とよく言っている。これは我々には、「マスクには一定の予防効果があるが、完全に防ぐこともできない」という分脈で理解できるわけなのだが、一般の人々が「マスクには一定の予防効果がある」と聞いたら、中には「マスクがあれば死なない」と極端に捉える人が出てきても無理はない。

 当然の結果として起きるのが、ただでさえ不足しているマスクの争奪戦だ。みんな文字通り命懸けである。そしてその結果として、本当に必要な医療機関や介護施設などのマスクが不足している。私の病院でも、3月いっぱいでマスクのストックは底を付く可能性が出てきた。

 こういう時、重要なのは優先順位だ。まずは、新型コロナウイルス感染症と診断された患者、次に、実際に新型コロナウイルス感染症の検査や治療に従事している医療関係者に、十分なマスクを供給しなければいけない。その次に、新型コロナウイルスかどうかは分からないものの、発熱、咳、咽頭痛などの風邪症状が生じている患者にもマスクが必要だ。

 ただ、現実はそううまくはいっていない。何の症状のない大多数の人々が、連日マスクを買い求め、一日中マスクを着けているというのが実際だ。私は、少なくともマスク不足が深刻なこの時期には、症状もなく予防と称してマスクを着けるのは控えるべきだと考えている。実際私も、対面で患者さんの診療に当たっている時以外、マスクは着用していない。

 そういえばスター・ウォーズでも、黒いマスクをしていたヤツがいたな。最初は、暗黒卿という悪者だと思っていたが、マスクを脱いだら元イケメンの人間だった。宇宙戦争(スター・ウォーズのこと)とは言っても、結局は、人間同士の戦いだったというわけだ。戦時中やパンデミック時、こうした非常時に最も恐ろしいものは、ウイルスでも宇宙人でもなく、常に人間だということを忘れてはいけない。

 今、感染症を専門とする医療関係者が、新型コロナウイルスの対応や治療に必死になっている。彼らには、ジェダイの騎士になってもらわなければいけない。そのためには、私たち医師こそ、マスクの使用を必要最低限に控えることで、一般の人々の理解を得るよう努めなければいけないだろう。医療知識をフォースの力に変えて、社会を暗黒面から救い出すのは、かかりつけ医師の仕事だ。

 そういえば、亡くなられた私のお師匠さんは、ドラえもんにも似ていたが、ヨーダにも似ていた。またこんなこと言うと天国から叱られるな。。

著者プロフィール

東謙二(医療法人東陽会・東病院理事長兼院長)●あずま けんじ氏。1993年久留米大卒。94年熊本大学医学部第2外科。熊本地域医療センター外科などを経て、2000年東病院副院長。03年より現職。

連載の紹介

東謙二の「“虎”の病院経営日記」
急性期の大病院がひしめく熊本市で、63床の病院を経営する東謙二氏。熊本市の若手開業医たちのリーダー的存在でもある東氏が、病院経営や医師仲間たちとの交流などについて、ざっくばらんに語ります。
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 本連載、「東謙二の“虎”の病院経営日記」が1冊の本になりました。約10年間の掲載からよりぬきの回を「病院経営」「連携・救急」「医療の話」「ひと・酒」の4テーマに分け収録。書き下ろし「中小病院が生き残るための15箇条」の章は、「敵対より連携」「コバンザメ医療経営のススメ」「中小病院の生きる道」「2代目は本当にだめか」「同族経営と事業承継」……など、民間医療機関の経営者には必読の内容となっています。
(東謙二著、日経メディカル開発、2700円+税)

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