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「寿命」を受け入れられない時代

2015/04/30
東謙二

 新しい医療技術が開発され、さまざまな身体リスクを抱える高齢者でも受けられる先進的な治療法が増えている。最近、実施できる医療機関が増えている経カテーテル大動脈弁留置術 (transcatheter aortic valveimplantation:TAVI)もそうした治療法の1つだ。

 TAVIは、これまで開胸または一部開胸で実施されてきた大動脈弁狭窄症の大動脈弁の置換術を、経カテーテル的に実施するもの。国内では2013年10月に保険適用され、熊本県では済生会熊本病院(熊本市南区)にハイブリッド手術室が設置されて、2013年12月から実施できるようになった。その後、済生会熊本病院での症例が一定以上に達し、院内のスタッフだけでTAVIを施行できるようになったので、先日、その施設“独立”を記念して「南九州弁膜症カンファレンス」が開催された。

 TAVIの対象は、外科的に大動脈弁置換術が行えない患者や、リスクの高い患者だ。具体的には高齢であったり、肝臓や肺の合併症があったり、心臓外科手術を受けたことがあったり、悪性腫瘍を有していたり、といったケースが考えられる。開胸手術に耐えられないこうした患者であっても、大動脈弁留置術が受けられるということ自体は非常に喜ばしいことだ。

 しかし、1件当たり500万~600万円という高額な医療費がかかるとなると、諸手を挙げて賛成というわけにもいかない。南九州弁膜症カンファレンスでも、済生会熊本病院副院長の中尾浩一先生がそのことに言及されていた。

 どんな医療でも、対象年齢を制限するわけにいなかいので今後、TAVIの実施対象となる高齢者が増加することは間違いない。実際、超高齢者はTAVIの適応の1つと考えられている。ただ、年齢に関わらず、誰にでも施術できるということで本当にいいのだろうか――。

 もちろん、高齢者医療の適応について、簡単に一線をひくことはなかなか難しい。儒教的精神からいえば、高齢者を敬うことは大事なことだが、現代では、高齢者を過度に大切にし過ぎていると感じることも少なくない。

「転倒による骨折契機に肺炎で死亡」で裁判11年…

 医療以外の話で恐縮だが先日、校庭でサッカーボールを蹴っていた男児の両親に、損害賠償5000万円を求めた裁判が話題になった。報道によれば、11年前、校庭でサッカーをしていた当時10歳代の男児がボールを蹴ったところ、ゴールを外れ、それが道路に飛び出し、バイクで走行していた当時80歳代の男性がボールをよけようとして転倒。男性は足を骨折し、約1年4カ月後に入院先で肺炎で亡くなったという。その後、男性の遺族が「監督義務を怠った」として男児の両親を訴えていた。

著者プロフィール

東謙二(医療法人東陽会・東病院理事長兼院長)●あずま けんじ氏。1993年久留米大卒。94年熊本大学医学部第2外科。熊本地域医療センター外科などを経て、2000年東病院副院長。03年より現職。

連載の紹介

東謙二の「“虎”の病院経営日記」
急性期の大病院がひしめく熊本市で、63床の病院を経営する東謙二氏。熊本市の若手開業医たちのリーダー的存在でもある東氏が、病院経営や医師仲間たちとの交流などについて、ざっくばらんに語ります。
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(東謙二著、日経メディカル開発、2700円+税)

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