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虎、娘に病院を継がせるべきか考える

2013/09/02

 私事ではあるが、来春長女が高校3年になり、大学受験の年を迎える。「えっ、子供いたの?!」という読者も多いと思うが、ちゃんと虎の子は3匹います。

 とはいっても、父親は飲みに行ってばかりなので、子育ては専ら母親に任せっきり。たまに飲み会を早く切り上げ、「ただいま~」と帰宅すると、子供たちから「いらっしゃい」と言われる始末だ。ただ、父親の不在が功を奏したのか、どうにか医学部を射程圏内にできる学力が付いている。

 しかしながら、現在の医学部受験は私の時代に比べてはるかに難しい。久留米大の合格平均は、なんと4浪だそう。長女も「何浪かして医学部に行く」と余裕の様子だ。先日、その娘を連れて、わが母校である久留米大医学部のオープンキャンパスに行って来た。医学部長による大学説明のあたりから、不覚にもウトウトしてしまった。こんな親父の醜態が娘の受験に影響してはいけないと、必死に目を開けた。居眠りがバレていないかとこっそり横を見ると、娘も完全に爆睡しているではないか。

 2人で寝ているのもアホらしく思い、「久留米ラーメンでも食いにいくか」と30分でオープンキャンパスを後にした。娘は「ラーメンがおいしいから、久留米もいいな」なんて言っていた。帰りの新幹線では、娘から高校での話を聞いて過ごした。

 そもそもオープンキャンパスに行くことになったのは、担任の先生の勧めがきっかけだ。しかも、戻ったらきっちりレポートを提出しなければいけないという。昔はそんなことはなかっただけに驚いた。それだけではない。担任の先生から進学希望大学を書きなさいと言われ、娘が「熊大医学部」、「久留米大医学部」、「福岡大医学部」と書いたところ、「なんで医学部しか受けないんだ」と怒られたらしい。娘は「うちの担任は分かってないもん!」と言っていた。

 新幹線の車窓に映る田園風景を見ながら、私は自分の高校時代を思い起こしてみた。当時私は、「なぜ医者になると決めたのか?」と聞かれたら、「後継ぎだと決められていたから」と答えていた。でも、後継ぎなんて周りが決めたことであって、本音では後を継ぐのが嫌だった。しかし、そう言ったら「わがままだ」と返された。「医者になりたくてもなれない人がたくさんいるのに、贅沢な悩みだ」とも言われた。かと言って、「医者じゃないなら、何になりたいのか」と尋ねられても、私からは言葉が出てこなかった。結局、親のために医学部に行くことを決めていたのだろう。そういう経緯で、一生反抗期と言われていた私でさえ、一応医学部を目指した。むろん、やる気は出なかったが。

 医者を親に持った人間には、多少なりとも理解してもらえるのではないだろうか。病院の後継者に指名された人ならば、なおさら分かるだろう。世の中に何万とある職種の中で、なぜ医者にしかなれないのか。昔、九州ローカルのスーパーマーケットの宣伝で、「ジャガイモから伸びる芽の方向はいつも無限大!」とかいうセリフがあったが、私にとっては芽が伸びるべき方向は1つだけ(現実には、一時期あらぬ方向へ若干芽を伸ばした時期があったのだが、それについては詳細には語れないので割愛させていただきます)。

 そんな私だから、娘に医者になれなんて言ったことはない。しかし無意識に医者になるプレッシャーを与えているのだろう。それが「うちの担任は分かっていないもん!」という言葉につながったのだ。子供は親に気を遣って生きている。今思い起こすと、グレていた私でさえ「医学部には行かなきゃ」と気を遣っていたのだと思う。

著者プロフィール

東謙二(医療法人東陽会・東病院理事長兼院長)●あずま けんじ氏。1993年久留米大卒。94年熊本大学医学部第2外科。熊本地域医療センター外科などを経て、2000年東病院副院長。03年より現職。

連載の紹介

東謙二の「“虎”の病院経営日記」
急性期の大病院がひしめく熊本市で、63床の病院を経営する東謙二氏。熊本市の若手開業医たちのリーダー的存在でもある東氏が、病院経営や医師仲間たちとの交流などについて、ざっくばらんに語ります。
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 本連載、「東謙二の“虎”の病院経営日記」が1冊の本になりました。約10年間の掲載からよりぬきの回を「病院経営」「連携・救急」「医療の話」「ひと・酒」の4テーマに分け収録。書き下ろし「中小病院が生き残るための15箇条」の章は、「敵対より連携」「コバンザメ医療経営のススメ」「中小病院の生きる道」「2代目は本当にだめか」「同族経営と事業承継」……など、民間医療機関の経営者には必読の内容となっています。
(東謙二著、日経メディカル開発、2700円+税)

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