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悲惨な孤独死、餓死の現場を見て考えたこと

2011/01/25

 警察医として時々、餓死自殺の現場に呼ばれることがあります。どこの現場も言葉では言い尽くせないほどの悲惨な状況です。何度経験しても慣れることはありません。遺体のある家へ入るときに先に到着していた検察官から「先生、床が汚いので靴履いたままでいいですよ」と言われることもあります。いくら汚くても、人の家に上がるときに靴を履いたままはなかろうと思い、靴を脱ぐようにしていますが、確かに汚い。畳は砂やほこりにまみれており、足跡がくっきりと付いてしまいます。

 ある現場では、介護疲れの息子がテーブルに放心状態で座っており、食べ残した複数のカップラーメンからは腐臭が漂っていました。その先には死後硬直した息子の母親の遺体があり、その痩せ具合からもなぜこのようなことになったのか想像できました。これは、決してレアケースではなく、似たような悲惨な状況は頻繁に目にします。隣町にある団地では毎年数人が孤独死していましたが、昨年はなんと半年で13人の孤独死があったそうです。元々独居高齢者が多い団地ですが、自治会長、民生委員の目が届く範囲も限られており、お手上げ状態のようです。

 今年の冬は全国的に去年より寒さが厳しいです。この寒さの中、ふと思い出したのは、まだ暑かった去年の秋に話題となった「消えた高齢者」です。あの事件は、我々医療関係者にとっても実に衝撃的でした。100歳以上の所在不明高齢者が23万人とは…。この問題、その後、どうなったのでしょう? 皆の所在はわかったのか、ほとんどが死んでいたのか、はたまた行方不明のままなのか…。マスコミ報道も尻切れの印象で、いまだに分からないことだらけです。今年も「敬老の日」前後に話題になるんだろうなあ。いずれにせよ、今の日本の家族形態や、単身者の増加などを勘案するに、「消えた高齢者」は今後も増えていくでしょう。

 うちの病院や老健施設の入院患者・入所者を見てみると、キーパーソン、いわゆるその人の医療・介護方針などの決定にかかわる縁者がいない人が増えてきています。キーパーソンになり得る人(例えば配偶者)が認知症のケースもあります。老老介護、認認介護は最早珍しくありません。さらに、病状が悪化して家族に連絡しても「行かないといけないんですか?」といった返答をもらうことも度々あります。中には亡くなった後、「今、熊本にいないんです。お金は振り込むんで、そちらでなんとかしてもらえませんか」と肉親から言われることも。呆れてものも言えません。

 もちろん大多数の高齢者では、こんなことは起こりません。家族は毎日のように見舞いに訪れ、病状の説明も真面目に聞き、「できるだけ早く、自宅に帰って来てほしい」とおっしゃいます。そんな家族を持った高齢者は、現在の医療制度、介護制度をフルに活用し、家族の負担も可能な限り軽減しながら、幸せな老後、そして終末期を迎えることができるでしょう。そのためには、在宅医療の体制や高齢者住宅なども充実させ、さらには近隣コミュニティーの、相互扶助の精神を深めていくことも重要でしょう。

著者プロフィール

東謙二(医療法人東陽会・東病院理事長兼院長)●あずま けんじ氏。1993年久留米大卒。94年熊本大学医学部第2外科。熊本地域医療センター外科などを経て、2000年東病院副院長。03年より現職。

連載の紹介

東謙二の「“虎”の病院経営日記」
急性期の大病院がひしめく熊本市で、63床の病院を経営する東謙二氏。熊本市の若手開業医たちのリーダー的存在でもある東氏が、病院経営や医師仲間たちとの交流などについて、ざっくばらんに語ります。
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 本連載、「東謙二の“虎”の病院経営日記」が1冊の本になりました。約10年間の掲載からよりぬきの回を「病院経営」「連携・救急」「医療の話」「ひと・酒」の4テーマに分け収録。書き下ろし「中小病院が生き残るための15箇条」の章は、「敵対より連携」「コバンザメ医療経営のススメ」「中小病院の生きる道」「2代目は本当にだめか」「同族経営と事業承継」……など、民間医療機関の経営者には必読の内容となっています。
(東謙二著、日経メディカル開発、2700円+税)

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