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真冬の椿事。東病院、警察から感謝される

2010/01/25

 ガッシャーン!!!。12月21日午前3時、病院周辺に大音量が響きました。なんの音だろうと、寝ぼけ眼をこすりこすり自宅(病院の裏が自宅です)の部屋の窓からのぞきました。なんと病院横の家のあたりから白い煙が出ています。隣の家だとしたら、うちの病院がかかりつけのあの老夫婦やないか。様子を見に行かねば。まだ眠く重い身体にジャンバーを羽織って、寒々とした屋外に出ました。パトカーのサイレン鳴り響いている中、そこで見たものはガス爆発でもボヤでもありませんでした。病院前の道路の脇に立っている電柱に、車が正面から突っ込み、フロント部分が真っ二つになっていたのです。警官2人と共に走り回っているのはうちの病院の職員でした。こりゃ大事故だ。完全に目が覚めました。

 まず後部座席から血だらけの若者1人を警官とうちの看護師が一緒になって引きずり出しました。まだあと2人が車に残っています。ちょうどその時、ボンネットからボッという音とともに火が出ました。看護師が「消火器、消火器」と叫びながら、急いで病院に駆け込み、他の職員と一緒に消火器を持ち出してきて、その火をすぐさま消しました。そのころになって、消防車と救急車が到着、血だらけで意識朦朧としているの一人目を救急車に乗せて済生会熊本病院に送りました。その後もレスキュー車や、パトカーが続々と到着、病院前の狭い2車線道路は緊急車両で完全に塞がれました。

 次に事故車の助手席に残っていた二人目をようやく引きずり出し、ストレッチャーで東病院に運びました。しかし、事故車には運転席にもう一人残っています。ただ、私たちが動かそうにもハンドルと座席に完全に挟まれて搬出できません。そこで、レスキュー隊が器具を使って救出にとりかかりました。私は一旦病院に戻り、二人目に救出した若者の応急処置に取りかかりました。20分ほど経つとレスキュー隊員が処置室にやって来て「すぐ来てくれ」と言いました。そこで現場に再び戻りました。事故車のなかで挟まれたままの運転手の若者は、レスキュー隊によりハンドルを外されたことで少しだけスペースができ、上半身が少し動くようになっていました。でも下半身はまだ挟まれていて搬出はできません。レスキュー隊員から「意識が落ちている。どうしたらいいか」と聞かれました。事故からすでに1時間ほど経過しています。レスキュー隊も後部座席側からハンマーや電気のこぎりなどを使って必死に、若者を搬出するためのスペースを作ろうとしているのですが、車に食い込んだ電柱が邪魔になってうまく行きません。まだまだ救出には時間がかかりそうです。

 そこで、とりあえず酸素ボンベを病院から持って来て、若者にマスクを装着し酸素を流しました。さて、あとは輸液のルート確保をどうするか。運転席の窓ごしに手をさし入れると運転手の右腕が掴めました。よし、これを引き出してと思ったら、「ウアー」と若者が痛みを訴えました。しかたなく痛まない程度に前腕だけ引き出して駆血帯を巻き、救急隊に懐中電灯で照らしてもらいながら運転席に私が頭を入れて、腕を直接見ながらルートを確保しました。気温4℃の寒空の下、運転手に低体温になっていました。その後レスキュー隊が座席を外すことに成功して、若者を車から引きずり出して外のストレッチャーに乗せることができました。血圧は保たれていましたが下半身が不随になっており、3次救急の病院に送ることに決めました。ホッと一息つきましたがここでさらに問題が起こりました。病院前の狭い道路に消防車やパトカーがひしめいており、肝心の救急車が近くにいません。救急車はなんと50メートルも離れたところに止まっている。東病院の救急車も出せない。なんてこった。

著者プロフィール

東謙二(医療法人東陽会・東病院理事長兼院長)●あずま けんじ氏。1993年久留米大卒。94年熊本大学医学部第2外科。熊本地域医療センター外科などを経て、2000年東病院副院長。03年より現職。

連載の紹介

東謙二の「“虎”の病院経営日記」
急性期の大病院がひしめく熊本市で、63床の病院を経営する東謙二氏。熊本市の若手開業医たちのリーダー的存在でもある東氏が、病院経営や医師仲間たちとの交流などについて、ざっくばらんに語ります。
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(東謙二著、日経メディカル開発、2700円+税)

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