日経メディカルのロゴ画像

東京は今日も雨だった…

2009/07/22

 東病院は航空身体検査指定機関でもあります。JALやANAの定期便パイロットは年に2回、指定機関(病院など)で検査をうけることが義務化されていますし、個人的に趣味などで飛行機を操縦するパイロットも年1回の検査が必要です。その検査を行う指定医にも3年に一度、羽田空港内で行われる講習会への出席が義務化されています。パイロットの診断基準は普段我々が行っている一般診療の診断基準とまったく違います。例えば、血圧の基準にしても航空身体検査では合格ラインは160/95未満です。パイロットに説明する時も「合格ですが高めです」なんて変な説明をしています。独特な基準であり、しかも時折改訂されるため、指定医は定期的な講習会で勉強する必要があるのです。

 6月の梅雨のまっただ中、その講習ために上京しました。熊本から東京に行く場合は当然、飛行機を使います。いつも地方からの飛行機は羽田空港の一番端のターミナルに着くのでちょっと頭に来ます。遠来の客に長い廊下を歩かせるなんて不公平だ、など思いながらエスカレーターに乗ります。しかし今回は足取り軽く到着ロビーに向かいました。丸一日の講習会はブルーですが、講習会の前夜にとある友人と飲む約束があったのです。しかし空港の外はうす暗く雨。何となく得体の知れぬ不安がこみ上げて来ます。

 モノレールで浜松町駅に着き、宿にチェックインするや否や友人からメールが届きました。「大江戸線で青山一丁目に来るように」。うーん青山っていうとブディックが並んでいるおしゃれな街。男二人でショッピングなのか。不思議に思いながら青山一丁目の駅に着き、指定された5番出口から階段を上がると殺風景な交差点に出ました。あれ、これは熊本の運動公園みたいな風景だ。青山といえばセレブといわれる人が歩いており、たまにはマリエみたいな女の子がすれ違うのだと勝手に想像していたので、しまった裏口に出たのだと思いました。しかし、傘を差した細身のダンディな友人が目に入りました。あいさつもほどほどに「さあ、行こうか」と言われ、神宮の森の中、足早に歩く彼の後をついて行きました。程なく着いたのはなんと神宮球場。「まさかこの雨の中、野球を観るわけではないよね」と恐る恐る友人に尋ねると「もうチケット買っておいたから」と即答。きつねにつままれたとはこのことだ、と思いながら球場の中に入りました。

 照明のカクテル光線は思いの外きれいでしたが、重く垂れ込めた雲は照明の最上部も隠すほどで、小雨ながら雨は非常に我々を濡らし続けます。シートは水浸しで傘だけではずぶ濡れになってしまうのでレインコートを購入しました。その日はまだ交流戦の時期、試合はまさかのヤクルト対楽天。私が阪神ファンであることは百も承知の彼なのに……。生まれて初めて阪神の試合以外を、雨の球場で観る羽目になりました。友人も中日ファン。なぜここに二人でいるのかわからないまま試合が始まりました。楽天側のシートなので一応泣く泣く楽天を応援するもヤクルトのワンサイドゲーム。途中友人の仲間たち(この雨の中、球場に集まる彼らもある意味異常です)が加わったころには、生ビールは雨が注ぎ込みビールの水割りになるは、おつまみのするめは雨のしずくでふやけるはで試合途中で早々に退散しました(それでも7回まで観戦しました)。ちなみにこの日、野村監督は「こんな日に野球をやるな!」と審判団に愚痴をこぼしたと、翌日のスポーツ紙は報道していました。

 新宿の居酒屋に移動して、焼酎を飲み始めてからようやく生き返りました。彼にまず尋ねたのは、なぜ神宮球場だったのか。「いやー、初夏に夜風に吹かれながら外でビール飲むのも一興かと考えて」との答え。まずここから間違っている。夜風に吹かれるというのは、あくまでも体感温度として涼しく感じる場合に使われるべきものであり、あまりに寒くて温かい肉まんが異様に美味しく感じるときには使う言葉ではありません。さらにレインコートを着るほどの雨のなかでは「夜風に吹かれる」のではなく、どちらかといえば「嵐に遭った」との表現が適切です。それに野球を観るなら、東京にはドームという屋根のある球場があったはず。しかし、もしかしてかなり前からチケットを購入していてくれたのかもしれないので一応聞いてみました。「ああ、チケットは今朝、仲間に買ってきてもらったよ」。うーんさらに不可解な答え。東京は朝から雨の予報。私の小さい右脳をどんなに働かせてみてもわからない。だんだん酔いが回ってきて、結局、夜遅くまで初対面の彼の仲間と、経済の話から医療に関わる話、さらには結婚観に至るまで幅広く歓談しました。

 明日の講習会に備えて、彼にそろそろ「帰ろう」と言おうとしたら、「東京では、この時間まで飲むと電車もなくなるので、朝まで飲んじゃうんだよね」とのたまう。いえいえ私は近くにホテルを取ってあるので、と言う間もなく、彼は1軒目の店を精算し歩き出しました。しばらく歩いて小さな路地に入りました。回りを見回して「あれ、間違ったかな」と言っていたのでどこに行くのか聞いてみると「僕の中学時代の同級生がいる店」。彼の元彼女でも紹介されるのかと思い、私の悪い癖でちょっと顔くらい見てみたいと好奇心が湧いてきたので一緒に店を探しました。

著者プロフィール

東謙二(医療法人東陽会・東病院理事長兼院長)●あずま けんじ氏。1993年久留米大卒。94年熊本大学医学部第2外科。熊本地域医療センター外科などを経て、2000年東病院副院長。03年より現職。

連載の紹介

東謙二の「“虎”の病院経営日記」
急性期の大病院がひしめく熊本市で、63床の病院を経営する東謙二氏。熊本市の若手開業医たちのリーダー的存在でもある東氏が、病院経営や医師仲間たちとの交流などについて、ざっくばらんに語ります。
この連載が本になりました!
『“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営のススメ』
好評発売中

 本連載、「東謙二の“虎”の病院経営日記」が1冊の本になりました。約10年間の掲載からよりぬきの回を「病院経営」「連携・救急」「医療の話」「ひと・酒」の4テーマに分け収録。書き下ろし「中小病院が生き残るための15箇条」の章は、「敵対より連携」「コバンザメ医療経営のススメ」「中小病院の生きる道」「2代目は本当にだめか」「同族経営と事業承継」……など、民間医療機関の経営者には必読の内容となっています。
(東謙二著、日経メディカル開発、2700円+税)

この記事を読んでいる人におすすめ