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たかが病院経営なんかのために腹など切れるか

2009/06/25

 ある開業医の先生から、「先生のブログは“経営日記”という題目なのに、経営の話が少ないじゃないか」と言われてしまいました。というわけで、今回は病医院経営の話を少ししたいと思います。開業医の肩には、勤務医時代には経験しなかった様々なストレスがのしかかってきます。勤務医には勤務医なりのストレスがあります。でも、どっちが良かったか考えると、昔(勤務医)の方が良かった(楽だった)ような気がするから不思議です。それもこれも、経営をすることで生じるストレスのせいです。

 そもそも、医者なんていう職業を一生の仕事として選ぶ人間は、大体真面目過ぎる人が多いようです(じゃあお前はどうかって?それはこの際置いときましょう)。真面目はいいことだとは思いますが、社会で生きていくには厄介なものです。その真面目な人間が、医者になったことだけに飽き足らず、開業して経営もするなんてことは狂気の沙汰です。開業医の仕事は、規模やポジションで多少の違いはありますが半分は経営、半分は診療です。仕事の8割以上が診療だった勤務医との大きな違いがここです。診療は、今まで何年もやってきた仕事ですから、真面目である医師に色々な苦労はあるでしょうが、勤務医の延長線上でどうにかこうにかやっていけるでしょう。やっかいなのは、あとの半分、経営の方です。

 開業した途端に色々な業者との取引が始まります。相手は、私たちが医学部で生化学や生理学を学んでいるときに経済学や経営学を学んでいて、私たちが解剖実習のころには実社会で、新米サラリーマンとして先輩社員から現実の厳しさをたたき込まれていたことでしょう。さらに私たちが研修医となってバタバタしているころには、もういっぱしの中堅サラリーマンとして酸いも甘いも覚えていたに違いありません。我々医師の臨床の経験値が上がり、一発奮起して開業を決断するころには、彼らは社会の裏も表も知り尽くし、世間知らずの開業医を格好の獲物とする立派な“ハンター”に育っています。

 実社会というジャングルによちよち歩きで出てきた開業医を、百戦錬磨のハンターが放っておく訳ありません。「先生、お忙しいところ私みたいなものに時間を取らせてしまい、誠に申し訳ありません」と頭を下げるだけ下げて、ちょっと怯えた目で近づいてきます。あとは言わなくてもわかるでしょう。「よし、うまくいったぞ。しっかり半額まで値引きさせた。やっぱり俺は頭いいのだなあ」と喜ぶ院長に、「いやあ、商売上手な先生には本当に参りました。やっぱり頭のいいお医者様には適いません」とおまけの台詞まで吐く始末です。病医院の駐車場でハンターたちは、営業所に取引の成功を報告しながら小躍りしていることでしょう。

 では、どうしたらハンターたちを手玉に取ることができるでしょうか。一番いい方法は一度医者を辞めて、世の中から「先生」なんて虚飾の尊敬語を使われない立場になってみることです。薬品メーカーに新入社員として入社させてもらい、社員研修で山に行き大声を出す練習から始めてみれば、少しは営業が理解できるかもしれません。さらに、病院の待合で生意気な若造医者に会うために2,3時間立って待っていたら、社会の仕組みが少しはわかるはずです。とは言うものの、ぬるま湯の医療界で暮らしてきた私は今さら医者を辞める勇気はありません。では、どうするのか。私のたった10年程度の病院経営の経験から言わせてもらえば、「医者が経営なんてうまくできるわけない」と諦めてしまうことです。人間、開き直ったときのほうがいい結果を生むというではないですか。しかし、世の中そう甘くない。いくら開き直ったって、うまくいかないときはうまくいかない。ここから先が今回の私が言いたいことです。

 自分の責任において、「開業を成功させないといけない」という気持ちで頑張ることはいいことです。でもいいですか、私たちが専門としてやってきた医療に例えて考えてみてください。基幹病院で働いていたころ、医者になって20年、30年経験を積んできた専門医たちがしっかり検査して、術前カンファレンスで検討して、熟練したメンバーで最高のオペをしたと思っていても、常に最高の結果になるとは限らなかったはずです。それは、私たちが扱っている対象が生きている人間だからです。

 開業してわかったのですが、経営も生き物でした。物の流通やキャッシュフロー、季節ごとの患者数の増減、2年ごとに行われる診療報酬改定……。すべてが複雑に絡み合って医療経営が成り立っています。まさに生き物そのものです。だから、これが最高のやり方だと思ってやっても常にいい結果がでる保証はありません。そういったことを、現場で働くサラリーマンの皆さんは嫌というほどにわかっている。そういうわけで、その道のプロになると仕事が終わると居酒屋に向かい、ネクタイを頭に巻いてクダまいて飲むという、すばらしい解消法を実践しているというわけです。一生懸命やってみて、うまくいかなかった時は院長室にひとり籠って悩んでいてはいけません。ちょっと経営に困ったことが起こったら、まず酒でも飲みに行って下さい。ただし、飲み屋で騒ぎすぎて入店拒否になってもいいですが、公園で裸になって大声を出してはいけません(私は時折やっていますが、幸いまだ捕まったことはありません)。

著者プロフィール

東謙二(医療法人東陽会・東病院理事長兼院長)●あずま けんじ氏。1993年久留米大卒。94年熊本大学医学部第2外科。熊本地域医療センター外科などを経て、2000年東病院副院長。03年より現職。

連載の紹介

東謙二の「“虎”の病院経営日記」
急性期の大病院がひしめく熊本市で、63床の病院を経営する東謙二氏。熊本市の若手開業医たちのリーダー的存在でもある東氏が、病院経営や医師仲間たちとの交流などについて、ざっくばらんに語ります。
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 本連載、「東謙二の“虎”の病院経営日記」が1冊の本になりました。約10年間の掲載からよりぬきの回を「病院経営」「連携・救急」「医療の話」「ひと・酒」の4テーマに分け収録。書き下ろし「中小病院が生き残るための15箇条」の章は、「敵対より連携」「コバンザメ医療経営のススメ」「中小病院の生きる道」「2代目は本当にだめか」「同族経営と事業承継」……など、民間医療機関の経営者には必読の内容となっています。
(東謙二著、日経メディカル開発、2700円+税)

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