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「パッチ・アダムス」で号泣する事務長

2008/06/03

真面目にやったらいかん
 時折、同世代の開業医の先生から「病医院の経営に一番大切だと思われることは何ですか」と質問されます。私の答えはいつも決まっています。「経営者として一番大切なことは“真面目にやったらいかん”ということです」。

 先生によっては、私がふざけていると思って、「そんなこと言って、ちゃんと経営しているじゃないの」と言い返される人もいます。そのときは飲みに誘って、じっくり腰を据えて説明をします。
 
 まず、“ちゃんと”と“真面目”との違いからです。経営者は従業員に対して、従業員とその家族が生活できるだけの給与を支払わなければなりません。職員を雇い、働いてもらっている以上、そこは“ちゃんと”経営しなければなりません。しかし、病院と関わる様々な業者とのやりとりとなると話はまた別です。ずっと医療を専門としてやってきた人間が、経済学部や経営学科を卒業し、その後社会人になって商売を体で覚えてきた人間と“真面目”に渡り合おうなんてことが土台無理な話なのです。
 
 なにかしらの業者が商売に来たら、「今日もまた体よく騙されるのかな」ぐらいの気持ちで適当な値段で商品を買うことです。でも、医師の多くは根本的に自信家が多いので、「高すぎる!この商品の相場はこれくらいだろ」とか言って業者が困った顔を見て満足したりもします。すると、「先生には敵いません」と言って業者は値引きをしてきます。しかし、医師がもっと安い値段を提示すると「先生、私には子供が3人いまして……」などと泣きを入れてきます。
 
 ここでよく考えれば、自分が得ている報酬と、業者の担当者の給料の比較をしてもナンセンスだということに気が付くはずです。さらに、自分の病医院の規模と業者の会社の規模を比較すれば、担当者の生活を心配する必要は全くないことが分かります。しかし、多くの場合、「俺がこれをこの値段で買わなきゃ、担当者は給料を下げられて、挙げ句の果てには左遷されるかもしれない」という心配から、ついつい業者の言い値で商品を買ってしまいます。そして、何年かたって、担当者が出世したとき、どうやらいつも騙されていたらしいということに気が付くわけです。
 
 このようにプロの商売人相手に、一開業医が“真面目”に張り合って“経営”をしようとしても到底勝ち目はありません。どうやったら薬を安く仕入れられるか? 一番安いMRIはどこの製品か? 安価な電子カルテはどれなのか? 1円でも安く病院を新築するにはどうしたらいいか?。そんなことばかり毎日真剣に考えていたのでは、診療どころではなくなってしまいます。医師を辞めて経営に専念するなら話は別ですが、医師である限り、“真面目”に経営することでなく、“ちゃんと”医療をすることにまず力を注ぎたいではないですか。自分で経営も診療もしようと思うなら、経営については職員にちゃんと給料を払える程度に、いい加減にやっていないと気が狂います。「真面目にやったらいかん」とはそういうことです。

著者プロフィール

東謙二(医療法人東陽会・東病院理事長兼院長)●あずま けんじ氏。1993年久留米大卒。94年熊本大学医学部第2外科。熊本地域医療センター外科などを経て、2000年東病院副院長。03年より現職。

連載の紹介

東謙二の「“虎”の病院経営日記」
急性期の大病院がひしめく熊本市で、63床の病院を経営する東謙二氏。熊本市の若手開業医たちのリーダー的存在でもある東氏が、病院経営や医師仲間たちとの交流などについて、ざっくばらんに語ります。
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 本連載、「東謙二の“虎”の病院経営日記」が1冊の本になりました。約10年間の掲載からよりぬきの回を「病院経営」「連携・救急」「医療の話」「ひと・酒」の4テーマに分け収録。書き下ろし「中小病院が生き残るための15箇条」の章は、「敵対より連携」「コバンザメ医療経営のススメ」「中小病院の生きる道」「2代目は本当にだめか」「同族経営と事業承継」……など、民間医療機関の経営者には必読の内容となっています。
(東謙二著、日経メディカル開発、2700円+税)

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