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短期連載◎経営ができる看護師になろう!【第2回】
「看護師 vs 経営者」仁義なき戦い

2015/11/19
上村 隆幸(インキュベクス)

 訪問看護ステーションには数多くの民間企業が参入していますが、そこでは「宿命」とも言える「看護師 vs 経営者」の戦いが繰り広げられています。中には、創業から3年経った今でも、看護師と経営者の対立が続行中というケースもあるのですが、それすら微笑ましく思えるほど両者の戦いがエスカレートし、ついには看護師が全員退職してしまった、なんていう訪問看護ステーションすらあります。実際にあったケースを紹介しましょう。

「私たちを『儲けの道具』として見ている」
看護師が一斉退職した訪看ステーション


 首都圏で訪問看護ステーションを開設した民間企業出身の経営者Aさんは、看護師とのコミュニケーションに悩んでいました。
 
 例えば、営業に対する考え方の違いです。営業活動による利用者獲得は利益に直結する重要事項ですが、Aステーションに勤務する看護師は皆、「それは私の仕事じゃない」という反応で、なかなか取り組んでくれなかったようです。Aさんとしては、利用者が少なくなればサービスが成り立たず、最終的には皆の給与すら確保できなくなるという危機感だけでも看護師たちと共有したかったそうですが、なかなか浸透しなかったといいます。

 それでも、Aさんは看護師に歩み寄り、極力無理強いをせず、叶えられる要望には全て応えたそうです。しかし、そうすることでかえって「良い待遇が当たり前」という雰囲気が看護師の間に広がってしまいました。

 そして、ある看護師さんとの面談が、決定的な亀裂を生みました。

 その日、Aさんはステーション内で発生した問題についてヒアリングするためにその看護師さんと1対1の面談を行いました。「一方的に判断せず、ちゃんと意見を聞かなくては」と、Aさんは努めて柔らかく接するようにし、面談は一見和やかに終わったかに思えたのですが、その直後、その看護師さんは面談とは全く異なる内容を、仲間の看護師に吹聴したのだそうです。

 「Aさんから私が悪者のようにとてもひどいことを言われた。私たちの仕事を馬鹿にしているとしか思えない……。Aさんは私たちを儲けの道具としか見ていない。Aさんの言葉を信じちゃダメ」

 退職した看護師たちから話が聞けず、Aさん側の情報だけではありますが、Aさんは発生した問題のヒアリングをしただけのつもりだったのに、あべこべに「ひどい経営者」のレッテルを貼られてしまいました。ほどなくそのステーションの人間関係は完全に崩壊。一人また一人と看護師は退職し、最終的には看護師全員が退職してしまったのです。結局Aさんは看護師を採用し直すまで、ステーションを休止せざるを得なくなりました。

「奉仕」「品質」「WLB」重視の看護師
 その後、Aさんのステーションは新たに看護師を採用して再開しました。再開後、管理者となった看護師Bさんと経営者のAさんは意気投合し、今では順調に業績を伸ばしています。

 実は、新しい管理者となった看護師Bさんも、以前勤務していたステーションで大きな不満を抱えた経験があったそうです。一番の理由は、「経営者が話を聞いてくれないこと」でした。具体的には、自身の待遇面のことというより、利用者への対応に関する話を親身になって聞いてくれないことへの不満でした。

 Bさんは言います。「前の職場の経営者は、私たちが利用者への対応に関して悩んでいることや、提供するサービスの質に関する意見を、重要なこととして捉えてくれなかった。『私には看護のことは分からないから』が口癖で。彼の頭の中にあるのは数字のことだけで、どんなに異なる利用者さんであっても彼にとっては同じ、単なる『数字』なんだ、と思うとなんだかやってられなくて……」

 看護師さんの多くが、「どれだけ利用者に寄り添えるか?」やホスピタリティーを重視し、目の前の利用者の時間や生涯にどれだけ貢献できるかということに、価値を見出す傾向があります。Bさんも利用者についての話を前の職場の経営者にないがしろにされたことで、仕事のやりがいを失っていました。「今のステーションの経営者であるAさんは、多少の意見の食い違いがあっても、とにかくきちんと話を聞いてもらえるのがいいです。私たち看護師の気持ちをできるだけ理解しようという姿勢が伝わってきて嬉しい」とBさん。

 そのほか、ステーションの施設や備品などに対して不満を口にする看護師の方も意外と多く、よくよく話を聞いてみると「専門家としてベストな仕事をしたい」という意識から来る不満であったりします。また、最近は、夜勤などで疲弊して病院から訪問看護ステーションへ転職する看護師さんが増えていることもあり、自身が思い描くWLB(ワークライフバランス)が叶えられないことに対する不満も多く見聞きします。

 訪問看護事業所の経営者には、このような看護師さんの要望に応える配慮も不可欠となるのです。

「効率」「コスト」「利益重視」の経営者
 一方、経営者はどのように考えているのでしょうか?経営者の最大のモチベーションは、「いかに効率を上げて利益を確保するか」です。つまり、短い時間で効率の良い仕事をして、大きな利益を確保することや、できるだけ経費を抑えて利益を出すことに最大の関心があります。これは訪問看護に限らず、事業経営に携わる者は誰しも、そうでなくてはいけません。

 前出のAさんは言います。

 「みんなで一生懸命頑張って利益を上げなければ、利用者さんにも迷惑がかかるし、看護師さんの待遇も良くできない。訪問看護事業を始めた当初は、そこのところがいま一つ伝わっていないもどかしさが常にありました。『どうしてそんなことも分からないのか?』と最初の頃は、ただ戸惑うばかりで」

 しかし紆余曲折を経た今では、看護師にも利益やコストの意識はあるものの、経営者とは優先順位が違うのだと理解し、そこのギャップを埋めるためにとことん対話することを意識しているそうです。再開したステーションの看護師には、経営者がどう考えているかを採用時から徹底して教えるようにし、「利用者を『数字』として見ているわけでは決してないこと」、しかし「数字を挙げなければ、経営が成り立たないこと」を言って聞かせるそうです。このようにすることで、看護師とのトラブルはぐっと減ったそうです。また、利用者獲得のための営業も、「必要な看護を必要な人に届けるための大事な仕事」という考え方を明示したところ、看護師一人ひとりが考えて行動するようになり、スムーズに行えるようになったと言います。

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