
2021年1月10日、英国での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡者が累計8万人を超え、欧州一の死亡者数を記録した。新規感染者数は連日、6万人を上回り、首都ロンドンでは緊急事態宣言まで出された。英国の公営医療であるNHS(National Health Service;国民保健サービス)の職員は誰もが疲弊している。
このようなコロナ禍の中で、驚くべきニュースが発表された。英国NHSの医療従事者数がこの1年で記録的に増加している、というのだ。英国NHSで働く看護師数(常勤換算)は、2020年9月時点で29万9184人。前年同月は28万5871人だったので、その差は1万3313人となり、実に4.7%も増えているのだ。同様に、医師は前年比5.2%増、その他の医療従事者も4.5%以上の増加となっている1)。
NHSの医療従事者不足はもう何年も深刻で、国内の医療従事者は減少の一途をたどり、特に医師と看護師は海外からの労働力に大きく依存していた。しかし、COVID-19のまん延により、2020年春から何カ月も外国人医療従事者のリクルートを停止せざるを得なくなった。頼みの綱である外国人に頼れないのに、医療従事者の数が増加している。つまり、英国人や在住者で医療に従事する人が増えたのだ。
医療従事者がNHSを辞める原因は、待遇の悪さにある。これはNHS本部でさえ認めている。しかもコロナ禍の今でさえ、NHSの待遇は何一つ改善されていない。それどころか、さらなるプレッシャーにさらされているのだ。それにもかかわらず、なぜこれだけの増加があったのか? そこで今回は、NHSで働く看護師が増えた背景について書いてみる。