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なぜ、われわれは手洗いをしないのか?

2015/10/20
忽那 賢志(国立国際医療研究センター国際感染症センター)

図1 手指衛生の5つのタイミング
(参考文献1、2をもとに作図)

 国立国際医療研究センター国際感染症センターの忽那(くつな)です。この連載は複雑に入り組んだ感染症診療に鋭いメスを入れ、様々な謎や疑問を徹底的に究明するものです。

 今回は手指衛生についてのお話です。突然ですが、皆さんは手洗いしてますか?曇りのないピュアな眼差しで、真顔で聞かせていただきますけれど、皆さん、手洗いしてますか?ねえ、どうですか?

手指衛生の5つのタイミングとは?
 手洗いが大事ってことについては、医療従事者の皆さんには説明は不要かと思います。ちなみに、最近は、ちょっとお硬い感じで手洗いのことを「手指衛生」という言い方をします。患者から患者に耐性菌やウイルスなどを伝播しているのは他ならぬ医療従事者の手ですから、アルコールなどの手指消毒薬を使って(ノロウイルスやクロストリジウム・ディフィシルなどはアルコールが効かないので流水で)しっかりと手洗いをすることで伝播を防ぐわけです。

 では、われわれはいつ手洗いすればいいのでしょうか。当然、患者に病原体をくっ付けないためには診察やケアをする前にしないといけません。そして、診察やケアをした後に付着した(かもしれない)病原体を他の患者に伝播させないため、診察室や病室を出た後にも手洗いが必要です。その他の手洗いのタイミングはご存知でしょうか。

 2009年に世界保健機関(WHO)が手指衛生のガイドラインを発表しています1)2)。このガイドラインでは、手指衛生の5つのタイミング(図1)ということで、(1)患者に触れる前、(2)清潔/無菌操作の前、(3)体液に曝露した可能性があるとき、(4)患者に触れた後、(5)患者の身の回りの環境や物品に触れた後、には手洗いをしましょうということを提案しています。まあ、これはこういうものだと思って覚えていただくしかないですね。

 こうした手指衛生を励行するために、皆さんの施設でも「手洗いキャンペーン」みたいなのがされているのではないでしょうか。標語などを作ってポスターを病院内に掲示し「手洗いしましょう!」と呼びかけるアレです。いろいろな病院で定期的に実施されていることと思いますが、しかし、なぜ、わざわざ今さら「手洗いをしましょう」なんて当たり前のことをポスターを貼ってまで呼びかけないといけないんでしょうかねえ…。

 そう、それは言うまでもなく、われわれ医療従事者が手洗いをしていないからですね。漫才師の人たちが漫才をするたびに「僕らももっと勉強していかなあかんなあて思てるわけですけどね」と言っているのは、彼らが勉強してないからかどうかは分かりませんが、病院内に何度となく「僕らももっと手洗いせなあかんなあて思てるわけですけど」というメッセージが掲示されているのは、われわれ医療従事者が手洗いをしていないからですッ!(自分で言ってて意味が分かりません)

 そんなことを言うと「つーか私は手洗いやってるし。勝手にしてないって決め付けるのやめてほしいし。マジ訴訟したいんだけど!」とお思いかもしれません(すみません、訴訟だけは勘弁してください…)。しかし!こっちには動かぬ証拠があるんだよッ!

 ここでご紹介するのは、日本の複数の教育病院における手指衛生の観察研究です3)。患者を診察・ケアする前に手指衛生が適切に行われているかを直接観察法で評価したこの研究によると、全体の手指衛生の遵守率は、なんとたったの19%だったとのことです。打率で言うと1割9分であり、強肩・堅守の正捕手ながらバッティングの苦手なプロ野球・西武ライオンズの炭谷銀仁朗の打率と同等ということになります。それでいいんか、日本の医療従事者!やはり目標としては全盛期のイチロー超えを狙いたいところであります。なお、職種別に見てみると、医師が15%、看護師が23%であったとのことです。

著者プロフィール

くつな さとし氏●2004年山口大学医学部医学科卒。関門医療センター、市立奈良病院などを経て、2012年から国立国際医療研究センター国際感染症センターに勤務。趣味はお寺巡りとダニ収集。

連載の紹介

忽那賢志の「感染症相談室」
感染症にまつわる臨床現場でのさまざまな謎や疑問を徹底的に究明。複雑に入り組んだ感染症診療に鋭いメスを入れていきます。

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