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あなたが採った喀痰検体は「痰もどき」かも?

2015/09/07
忽那賢志

 国立国際医療研究センター国際感染症センターの忽那(くつな)です。この連載は複雑に入り組んだ感染症診療に鋭いメスを入れ、様々な謎や疑問を徹底的に究明するものです。

 細菌検査における血液検体、すなわち血液培養の採り方については以前ご紹介しました。今回は正しい喀痰検体の採り方について考えてみたいと思います。

「カーッ」で「ペッ!」はNGです!
 あなたが勤務する病棟に肺炎の患者さんが入院することになりました。医師は病原微生物の同定のために喀痰培養をオーダーします。「看護師さん、この患者さんの痰を採っておいてください」と医師に言われ、あなたは患者さんに痰の採り方を説明することになりました。さて、どのように説明しますか?

 「○○さん、いいですか。カーッ!ってやって、ペッ!ってコレに出してください」

 以前、このように超適当に説明している若い看護師さんがいて、正直かなりウケてしまいました。この看護師さん自身もかなり本気で「カーッ」とノドを鳴らしていて、若い女性のそのような姿を見たのが初めてだったからです。いやー、あれは良い経験でした(マニア談)。

 しかし、これは痰の採り方としてはダメですッ!なぜかと言うと、カーッとノドを鳴らしてペッと喀出されるものは、ノドにこびり付いている分泌物であり、痰ではないからです。痰の成分も含んでいるかもしれませんが、唾液成分も多分に含んでいると考えられます。

 唾液を多く含む「痰もどき」を培養してしまえば、唾液の中に含まれる細菌が発育して検査結果として示されます。それを見た医師は「ふんふん、α-レンサ球菌か…。じゃあ、これに効く抗菌薬を使えばいいんだな」と間違って判断し、唾液の中にいる菌を標的にした「vs唾液戦争」が勃発するハメに。実際に肺炎を起こしている細菌は蚊帳の外という、よく分からないことになってしまうのです。

 やはり「喀痰培養」ですから「痰もどき」ではなく「リアル痰」を採らなければなりません。痰は患者さんに「出してもらう」のではなく、われわれ医療従事者が「採りにいく」ものなのです(これ名言なので覚えておいてください)。痰を採るためにはそれなりの作法が必要です。

「キレイな痰」を採る努力、してますか?
 それでは、正しい痰の採り方をご紹介いたします。まず痰を採るタイミングですが、できれば早朝が望ましいとされています。これは寝ている間に痰が肺に貯留するためです。まあ急いでいる際には朝だの夜だの言ってられないのも事実でありますが。

 また、痰を採る前には口腔内の常在菌の混入を少しでも減らすために、歯磨きやうがいをしてもらいましょう。歯磨きをする余裕のないほどに状態の悪い患者さんもいるでしょうが、できればうがいくらいはやってもらいましょう。

 そして、痰の出し方ですが、しつこいようですが「カーッ!」っとやってはダメです。深呼吸して咳と共に一気呵成に痰を検体容器に出してもらいましょう。そこには黄金色に輝く「リアル痰」が喀出されていることでしょう。

著者プロフィール

くつな さとし氏●2004年山口大学医学部医学科卒。関門医療センター、市立奈良病院などを経て、2012年から国立国際医療研究センター国際感染症センターに勤務。趣味はお寺巡りとダニ収集。

連載の紹介

忽那賢志の「感染症相談室」
感染症にまつわる臨床現場でのさまざまな謎や疑問を徹底的に究明。複雑に入り組んだ感染症診療に鋭いメスを入れていきます。

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