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「風邪には抗菌薬」で本当にいいの?

2015/02/02
忽那賢志

 Aナーシング読者の皆さま、初めまして!国立国際医療研究センター国際感染症センターの忽那(くつな)と申します。現在11年目の感染症専門の医師です。国立国際医療研究センターの国際感染症センターと言えば、エボラ出血熱やデング熱など特別な感染症を扱っているというイメージがあるかもしれませんが、ごくごく普通の感染症も診ています。ですので、この連載は複雑に入り組んだ感染症診療に鋭いメスを入れ、様々な謎や疑問を徹底的に究明する内容にしていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

 第1回目となる今回は「風邪と抗菌薬」についてのお話です。

 皆さんは風邪に抗菌薬が効くと思っているでしょうか?恐らく、医療従事者であれば、ウイルス性上気道炎である感冒に対して、細菌感染症に用いるべき抗菌薬が効くとは思っていないと思います。では、風邪に抗菌薬が処方されている医療現場を見たことがあるでしょうか?ありますよね?あるでしょ?ごく一部の「意識の高すぎる素晴らしい病院」を除いて、日本の病院で働いていればどこにでもある光景なのです。何を隠そう、私が勤めている国立国際医療研究センターなんていうカッコいい名前の病院でも、平気で風邪に抗菌薬が処方されています。ええ 。そういう私も風邪に抗菌薬を処方しかけたことがありました。

無駄な抗菌薬の使用は「百害あって一利なし」
 あれは私が5年目の後期研修医の頃でした。私は当時、週に1回、某大学病院の近くの総合病院で非常勤医師として初診外来を担当していました。その病院は医師も看護師も年配の方が多く、そこで最も若い医師である私に、看護師さんたちは容赦なく様々な頼みごとをしてきたのでした。

看護師A「○○先生がレントゲンのオーダー忘れてるから、代わりに入れておいて」

看護師B「△△さんの退院確認入れておいて」

看護師C「メロンパン買ってきて」

 基本的に長いものには巻かれるタイプである私は、看護師さんが頼みごとを最後まで言い終わる前に「了解です!」と前のめりに返事していました。看護師さんの頼みごとにはすべてイエス、これが医療の大航海時代を生き抜く若手医師の処世術なのです。

 しかし、時々、次のようなお願いをされることもありました。

看護師D「先生、ちょっとノドが痛いんで抗菌薬出しておいて」

 習慣というのは恐ろしいもので、看護師さんからのお願いに思わず脊髄反射的に「イエス」と声が出かかりましたが、自分が感染症医を志していることを思い出してなんとか踏みとどまり、「イエス」と「ノー」が織り交ざった「…イノウ」と重低音で答える私でありました。

看護師D「イノウって何よ?」

忽那「えーと…伊能忠敬です、日本地図の。ファンなんです」

看護師D「ふーん。いいから抗菌薬処方してくれない?」

忽那「もちろん必要であれば出しますが、診察してからでもいいですか?」

看護師D「えー。まあいいけど、早くしてよ」

 症状を聞いてみると、昨日から何となくノドが痛くなってきて、今朝からは鼻水も増え、咳も出るとのことでした。 また、熱は37℃前後くらいで、食欲もあるようです。診察上も咽頭後壁が少し赤いだけで、扁桃腺の腫大や白苔の付着などはありませんでした。

著者プロフィール

くつな さとし氏●2004年山口大学医学部医学科卒。関門医療センター、市立奈良病院などを経て、2012年から国立国際医療研究センター国際感染症センターに勤務。趣味はお寺巡りとダニ収集。

連載の紹介

忽那賢志の「感染症相談室」
感染症にまつわる臨床現場でのさまざまな謎や疑問を徹底的に究明。複雑に入り組んだ感染症診療に鋭いメスを入れていきます。

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