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「息がしんどい」にモルヒネが使いづらいワケ

2014/11/10
倉原優

 呼吸器疾患の患者さんの多くは「息がしんどい」という訴えを持っています。呼吸器内科医としてどうにかして症状を和らげてあげたいと思っても、どの教科書にも「原疾患の治療によって症状を軽減させる」とお決まりのフレーズが書かれています。

 とにかく、今この時、呼吸の苦しみを取ることはできるのか?

 エビデンスのある唯一の薬剤は、塩酸モルヒネなどのオピオイドです。もちろん、酸素療法や呼吸リハビリテーションなども有効である疾患は多いですが、呼吸のつらさを根本的に取り去ることができる薬はオピオイドだけだと思います。では、なぜ教科書に堂々と「呼吸困難感に対してモルヒネを使いましょう」と記載されていないのか。その理由は、オピオイドの保険適用と日本人のオピオイドに対する認識にあります。

オピオイドの保険適用
 さて、がんではない呼吸器疾患の患者さんが「息の苦しさを取ってくれ」と訴えてきました。その患者さんにオピオイドを処方できるでしょうか?

 答えは「NO」ですが、私は個人的には医学的に投与してもよいと思っています。

 「オピオイド=がん疼痛の治療」というイメージを抱いている人は多いでしょう。かく言う私も昔はそうでした。がん患者さんの呼吸困難感については既にガイドライン1)が作成されており、モルヒネの投与が症状緩和に有効であることが知られるようになり、モルヒネを積極的に使用する緩和ケアチームも増えてきました。私もがん患者さんの呼吸困難感に対してモルヒネをしばしば使用します。しかしながら、非がん患者さんの呼吸困難感に対しては、オピオイドは保険適用が通っていません。

 呼吸器疾患の呼吸困難感に対するモルヒネの使用について、在宅医にアンケートを取った報告があります2)。これによれば、非がん性疾患の呼吸困難感の緩和のためにモルヒネに保険適用が認められる必要があると考える医師は65.9%で、保険適用が認められればモルヒネを使用しようと考える医師は63.1%と報告されています。つまり、日本では多くの医師が非がん性疾患の呼吸困難感の緩和にモルヒネの保険適用を望んでいる現状があります。

 保険適用外の使用について「どんどん使いましょう」とここに書くわけにはいかないので、あしからず。ただ、近い将来、オピオイドが非がん性疾患の呼吸困難感に堂々と使用できる日が来るかもしれません。

日本人のオピオイドに対する認識
 患者さんに説明していると、今でも「モルヒネ=がんの終末期」というイメージを持っている方は少なくありません。一般人5000人を対象とした全国調査では、30%が「モルヒネは中毒になる」「モルヒネは寿命を縮める」といったオピオイドについての誤解を持っていたとされています3)。実は医療従事者の中にも、ちょっとした誤解を持っている人はいます。そのため、なかなか非がん性疾患の患者さんの呼吸困難感に対してオピオイドを使用しましょうという風潮が出てこないのです。

 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン4)の中に、患者さんに対する説明例としてよいフレーズがあったので引用させていただきます。

 「楽になる」だけではなく、オピオイドを使用することで「できないことができる」ようになることを伝える

著者プロフィール

くらはら ゆう●2006年滋賀医大卒。洛和会音羽病院を経て08年から国立病院機構近畿中央胸部疾患センター内科に勤務。13年に書籍『「寄り道」呼吸器診療ー呼吸器科医が悩む疑問とエビデンスー』を刊行。現在、日経メディカルで「こちら呼吸器病棟」連載中。

連載の紹介

倉原優の「『寄り道』呼吸器ケア」
「根拠はあるのかな」と”寄り道”して考えることで看護のスキルはアップします。ブログ「呼吸器内科医」でおなじみの著者が、臨床ナースに役立つ知識を発信します。

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