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妊婦にレントゲン撮影は禁忌?

2014/10/14
倉原優

 妊婦や小児に対するレントゲン撮影は基本的に避けるべきもの、とされています。しかし、どのくらい何がコワイのか、という点についてはほとんど知られておらず、多くの患者さんも1枚の胸部レントゲン写真を撮影する際に「お腹の赤ちゃんは大丈夫でしょうか?」と不安になるくらいです。

 呼吸器内科の領域でも、喘息を生じた妊婦さんが時に来院します。妊娠すると、気管支喘息が一時的に悪化することが多いのです1)。妊娠によって悪化した呼吸器疾患を目の前にしたとき、胸部レントゲン写真を撮影すべきか否かという選択を迫られることがあります。

妊婦さん:「ゲホッゲホッ、赤ちゃんだけは被曝させないでください……、レントゲンは撮らないで……」

 このように、肺炎疑いの妊婦さんに懇願されたこともあります。どれだけ必要性を説明しても「撮らないで」と言われた場合は撮影できません。

 大きな問題として、私も含め医療従事者の被曝に関する知識が少ないため、どのくらいのリスクがあるかを患者さんに伝えることができないのです。質問する患者さんも、質問される医療従事者も、双方が分かっていなければ議論が成り立つはずもなく……。

 というわけで、看護師さんにはぜひともこの機会に知ってほしいと思います。

なぜ、被曝はダメなのか?
 そもそも、なぜ被曝がダメなのでしょうか。多くの人の認識は「将来がんになるかもしれないから」というものです。確かにこれは正しいのですが、医療従事者としてはもう少し突っ込んで知っておかなければならないことがいくつかあります。

 少ない被曝でもがんのリスクが高くなるという直線仮説と、胸部レントゲン写真のように少ない被曝ではがんのリスクは高くならないというしきい値説の2つがありますが、どちらが妥当なのか、いまだに決着は付いていません(ただ、たくさん放射線を被曝すればがんになることは確実です)。そのため、被曝の少ないレントゲン写真を撮影しても「確実に安全」なのか「少なからずリスクがある」のか、よく分かっていないために医療従事者や患者さんが混乱しているのです。

 また、ある人が10年後がんになったとしても、過去の被曝のせいなのか、被曝がなくてもがんが発生していた運命なのか、誰にも分かりません。因果関係を証明するには数多くの被曝者を集めて疫学的な研究を行う必要があります。

胸部レントゲンの被曝量は、国際線の飛行機に乗った時と同じ
 被曝量を表すには色々な単位があるのですが、ここではシーベルトという単位に統一します。ロルフ・マキシミリアン・シーベルトという物理学者が由来になった被曝線量の単位です。歴史で習った長崎のシーボルトでも車のシートベルトでもありません。シーベルトです。

 飛行機に乗ると、宇宙線が降り注いでいる中を飛行するため、搭乗者全員が被曝します。この話を病棟でしたら「えっ、本当ですか!」と言っていた看護師さんもいましたので、意外に知らない方も多いかもしれません。放射線医学総合研究所の航路線量計算システム(JISCARD)で、飛行機に搭乗した場合の被曝量を算出することができます。例えば東京からニューヨークまでを往復すると、1回の旅行で約0.11ミリシーベルト(約110マイクロシーベルト)の被曝をすることが分かります()。

著者プロフィール

くらはら ゆう●2006年滋賀医大卒。洛和会音羽病院を経て08年から国立病院機構近畿中央胸部疾患センター内科に勤務。13年に書籍『「寄り道」呼吸器診療ー呼吸器科医が悩む疑問とエビデンスー』を刊行。現在、日経メディカルで「こちら呼吸器病棟」連載中。

連載の紹介

倉原優の「『寄り道』呼吸器ケア」
「根拠はあるのかな」と”寄り道”して考えることで看護のスキルはアップします。ブログ「呼吸器内科医」でおなじみの著者が、臨床ナースに役立つ知識を発信します。

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