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タッピングやスクイージングって本当に意味があるの?

2014/09/29
倉原優

写真 タッピングをするときの手

 前々回の「体位ドレナージにエビデンスはあるか?」に引き続き、タッピングやスクイージングなどの肺理学療法の有効性について話してみたいと思います。

 タッピング(tapping)はその名の通り、喀痰排出をしやすくするように胸壁をたたくことを意味します。物理的に気管支が振動するので、その影響で喀痰が出しやすくなるとされています。タッピングは昔から知られている民間療法の一つです。小さな子どもの風邪や気管支炎でタッピングをしているお母さんは多いですよね。また、スクイージング(squeezing)は日本語で「絞る」という意味で、呼気時に胸郭の動きを補助してあげることで呼吸を楽にしたり排痰しやすくしたりすることを意味します。胸郭を実際に絞ることはできませんが、胸郭を使って肺を絞るようなイメージで呼吸補助を行います。

 しかし、「タッピングにはエビデンスはない、今はスクイージングが主流だ」なんてことを耳にしたことはないでしょうか? あるいは、スクイージングをやっていて「本当に効果があるのだろうか」と疑問に思ったことはないでしょうか?

 結論から言えば、タッピングにもスクイージングにも厳密にはエビデンスはありません。小さな報告はちらほらありますが、妥当性のある大規模な英語文献は存在しません。海外ではバイブレーションによる肺理学療法が主流の国すらあるくらいで、国によってバラバラなんです。

 「エビデンスがある/ない」は、会話をしている2人の間でも意味するところが食い違うことがあるので注意が必要です。「エビデンス」という言葉が一人歩きしないように気を付けなければなりません。私の個人的な意見としては、タッピングやスクイージングには現時点では有意に患者さんの症状を軽快するという国際的コンセンサスはありませんが、喀痰の排出に対しては有効であると考えています。厳密なエビデンスはないけれど、個人的に有効だと思っているということです。

 ただ、それが病態にどのくらい影響を与えるのかは分かりません。タッピングやスクイージングをしなくても変わらない程度の弱いパワーしかないのかもしれませんし、やらなかった場合と比べて劇的に症状が改善するかもしれません。この問答に結論を付けるには、喀痰症状のある患者さんをたくさん集めて「タッピング群」「スクイージング群」「何もしない群」の3群に分けて統計学的に解析しなければなりません。残念ながら、現時点でそういった臨床研究は存在しません。

タッピング
 タッピングは、お椀状に手を丸くして(写真)たたくのがよいとされています。お椀にしなくても胸郭を伝わる運動エネルギーはさほど変わらないと思いますので、そこまで形にこだわらなくてよいでしょう。小児科領域では3本の指でタッピングすることも有効とされています。たたく速度は、1秒間に3回です1)。舞台やコンサートなんかで拍手するときと同じくらいの速度ですね。あまり優しくタッピングしても効果はないので、ある程度強くタッピングする必要があります。といっても、バシバシたたくと患者さんから「痛い!」とクレームがくることは間違いありませんので、「ほどほど」の強さにしなければなりません。タッピングは気管支喘息の患者さんに対して禁忌という情報も聞いたことがありますが、タッピングのような衝撃だけで気管支の攣縮を悪化させるパワーはほとんどないので、そこまで神経質にならなくてもよいと思います。

著者プロフィール

くらはら ゆう●2006年滋賀医大卒。洛和会音羽病院を経て08年から国立病院機構近畿中央胸部疾患センター内科に勤務。13年に書籍『「寄り道」呼吸器診療ー呼吸器科医が悩む疑問とエビデンスー』を刊行。現在、日経メディカルで「こちら呼吸器病棟」連載中。

連載の紹介

倉原優の「『寄り道』呼吸器ケア」
「根拠はあるのかな」と”寄り道”して考えることで看護のスキルはアップします。ブログ「呼吸器内科医」でおなじみの著者が、臨床ナースに役立つ知識を発信します。

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