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妊婦・授乳婦・乳幼児に吸入ステロイド薬は危険?

2014/09/15
倉原優

図 正常および気管支喘息の気管支

 私は研修医の頃、不幸な患者さんを一度診たことがあります。30歳代の妊婦さんで、もともと気管支喘息を持っていた主婦でした。妊娠を機に「あなた、吸入ステロイド薬なんか使ったら胎児奇形になるわよ」とどこかの病院で言われ、それ以降一切吸入しなくなったというのです。その主婦は、妊娠24週くらいで気管支喘息の重積発作を発症して救急搬送されてきました。

 私は研修医だったので救急救命医が必死に助けている横でサポートをしていただけでしたが、残念ながら母体と赤ちゃんの両方とも助けることができませんでした。今でも駆け付けた夫の涙まじりの叫び声は忘れられません。もちろん、彼女が吸入ステロイド薬を使っていたとしても同じ結末だったかもしれません。ただ、私が気管支喘息の妊婦を診察するときに思い出すのは、この症例なのです。

妊婦に対する吸入ステロイド薬は必須
 吸入ステロイド薬には色々なタイプの製剤がありますが、基本的に毎日吸入することで気管支喘息をコントロールするものです。大事なのが、毎日吸入し続けること。良くなったからといってやめるのが一番よくない。気管支喘息の患者さんの気管支はただでさえ正常よりも細くなっています()。この狭くなった気管支は一朝一夕では元に戻りません。

 若い患者さんの多くは「もう発作も起こらなくなったから吸入しなくていいや」とすぐに吸入ステロイド薬をやめてしまうことが多いのですが、個人的には妊娠を控えている可能性がある患者さんにはずっと続けてもらいます。もし妊娠を控えていなくても、少なくとも半年は発作がないことを確認してから少しずつ吸入量を減らしていくようにしています。気管支喘息に対する吸入ステロイド薬は地味な薬剤に見えますが、気管支喘息のコントロールにとって吸入ステロイド薬が最も重要です

 ガイドラインでは、最も軽症のステップ1であっても気管支喘息の治療は吸入ステロイド薬が第一選択になっています(表1)。これは、これまで蓄積された吸入ステロイド薬のエビデンスに基づいています。そのため、吸入ステロイド薬を長期管理薬として使わない気管支喘息治療はあり得ないと思ってください。

著者プロフィール

くらはら ゆう●2006年滋賀医大卒。洛和会音羽病院を経て08年から国立病院機構近畿中央胸部疾患センター内科に勤務。13年に書籍『「寄り道」呼吸器診療ー呼吸器科医が悩む疑問とエビデンスー』を刊行。現在、日経メディカルで「こちら呼吸器病棟」連載中。

連載の紹介

倉原優の「『寄り道』呼吸器ケア」
「根拠はあるのかな」と”寄り道”して考えることで看護のスキルはアップします。ブログ「呼吸器内科医」でおなじみの著者が、臨床ナースに役立つ知識を発信します。

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