
写真 耳介で測定したSpO2(接触の問題か、やや低めに検出されていますが)。
さて、病棟勤務の皆さんは患者さんの指にパルスオキシメーターを付けて経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を記録していると思いますが、パルスオキシメーターは万能の器具ではないことをご存知でしょうか。
―このパルスオキシメーター、やっかいなことに時にウソをつくのです。
胸部異常陰影で入院した30歳代の女性の主治医になったときのことでした。ある日、病棟からコールがありました。
看護師さん:「○○さんのSpO2が88%しかありませんけど、酸素投与を開始した方がいいですよね?」
私:「えっ? この人、かなり陰影が小さいからSpO2は下がるはずはないんだけど…」
気になって病棟に上がってみると、確かにSpO2は88%を指していました。しっかりとパルスも検知しているし、手が冷たくて測定できていないワケでもなさそうです。
この患者さん、ファッショナブルと言いましょうか、とてもおしゃれな格好をしていることが多いので、私は爪にネイルかマニキュアをしているに違いないと思いました。爪のネイルやマニキュアはSpO2を下げることがあるのです。これはネイルやマニキュアが透過光を吸収するため、生体を透過する発光成分が変化することで計算値が狂うためと言われています。若い女性の場合、手の指全部にキレイなマニキュアをしていることがありますので、足の指で測定させてもらうこともあります。もちろん、足の指にペディキュアをしていることもあるわけですが…。
しかし、患者さんの手を見ても、ネイルどころかマニキュアすらありません。あれ? あれれ? と首を傾げていると、患者さんがこう言いました。
患者さん:「あ、透明のマニキュアはしていますよ」
確かに、よく見ると、透明のマニキュアが爪に塗られていました。マニキュアが透明であってもSpO2を下げることがあるのか…。これには一本取られました。
マニキュアですらこれだけ数値が狂うことがあるのですから、爪白癬などの爪疾患が重症の場合は全く数値が出ないこともあります。そのため、裏技として耳介(耳たぶ)や鼻でSpO2を測定する方法があります(写真)。うまくいかないことも多いのですが、意外と数値が検出できるので病棟看護師さんにこの裏技を伝授すると感謝されます。耳介でもSpO2が検出できず、どうしても測定したい!というときに洗濯バサミで鼻を挟むようにしてプローブを鼻に付けるのですが、意外や意外、これでもSpO2を検出できることがあるのです(ただし、ちゃんとキレイに使ってくださいね)。しかしながら、耳介や鼻での測定は精度が落ちてしまうため、やはり一番確実なのは動脈血液ガス分析だと思います。酸素飽和度を知るために患者さんに苦痛を与えるのは酷かもしれませんが。
頻度は多くないので忘れがちですが、マニキュアや爪疾患以外にもパルスオキシメーターがウソをつくことがあります。それは一酸化炭素中毒です。特に救急の看護師さんはこの病態を知っておく必要があります。ヘモグロビンと結合した一酸化炭素は非常に明るい赤色になるので、低酸素の状態であってもその赤色からパルスオキシメーターが高いSpO2だと勘違いしてしまうのです。