
イラスト:立花 満
訪問看護の仕事に就いて2年目の松田俊介さん(仮名、26歳)が、河瀬しま子さん(仮名、78歳)を訪問した際の出来事を語ってくれました。
昔は文化住宅と呼ばれたらしい和洋折衷の「サツキとメイの家」のような雰囲気の住宅。そんな家に河瀬さんは独りで住んでいます。
晴れ渡ったある日の正午前。
訪問看護師としてやるべきことを終えた松田さんが、河瀬さん宅を辞する支度を始めると、窓際でリクライニングチェアに身を預けていた河瀬さんが言いました。
「あなた、自分が看護師に向いていないかもと、思ったことあるでしょ」
「え? あっ、はい。実は、あります。えっと、どうして分かったのですか?」
「そういうの、私、分かるの」
河瀬さんはニヤリとし、続けます。
「やはりね。それを見込んで、あなたの昼休みを10分だけ頂けない? 今から聞いてほしいことがあるの」