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ベージュや黒のガーゼもあればいいのに

2019/07/26
小林光恵

イラスト:立花 満

 私が週3日、ナースとして働いているデイサービスでの出来事です。朝のミーティングの中で、利用者のTさん(85歳、女性)が自宅内で転倒したものの、頭頂部の皮膚をほんの少し切っただけで済んだということを知りました。

頭頂部のカーゼを恥じらう利用者さん
 テーブルに着いた約40人の利用者さんのバイタルサインを順に測定していき、Tさんのそばに行くと、彼女はすがるような表情で「お願い、取って! あるんだってね、ガーゼが」と言って、自身の頭を指差しました。

 正面からは見えませんでしたが角度を変えて見ると、彼女の後頭部寄りの頭頂部に、5cm四方に折り畳まれたガーゼが、頭皮から少し離れてテープで付けられていました。転倒後に受診したクリニックで処置されたものでした。

「そんなところにね、ガーゼが付いているなんて知らなくてここに来ちゃったから、みんなから『それはなんだ?』『どうしたんだ?』って聞かれて、恥ずかしくて恥ずかしくて」

 クリニックでガーゼを貼られたとは思わなかったし、朝は蒸しタオルで顔を拭いて手鏡を見るくらいだから頭にガーゼが付いていることなど見えず、同居の娘さんからも伝えられなかったということでした。そのガーゼに付着したごく少量の血液は乾いており、小さな創部も乾いていたため、ガーゼを取った後、創部はオープンのままにしました。

 Tさんは頻繁にカラーリングをして、いつも黒々とした髪を保っている方です。外したガーゼを私の手から奪ったTさんは「白いから、悪目立ちするのよね。まったく」と言うと、そのガーゼをぽいとゴミ箱に捨て、「ごめんね、こんな小さなことで騒いで。年寄りのわがままでごめんねえ」

「わがままだなんて、そんなことないですよ。白いガーゼ、目立ちますからね」と答えながら、私の中で「ベージュや黒のガーゼがあればいいのに…」という思いが再燃しました。

鼻の下のガーゼが嫌で泣き出した女子高校生
 今から30年以上前、短い間ながらクリニックでナースのアルバイトをしていたとき、鼻の下に切傷を負って来院し、縫合などの治療を受けた女子高校生がいました。「いつまでガーゼをしておかなければなりませんか?」と質問した彼女にだいたいの時期を答えると、彼女は大声で「そんなに?」と驚いて泣き出し、「そんなの恥ずかしい、やだやだ」「手とか足とかなら、いや目や頬だって、鼻の下よりはまし」と涙声で言ったのでした。その様子を見ながら、「白ではなく肌色のガーゼがあれば目立ちにくいかもしれないなあ」と思ったのでした。

著者プロフィール

小林光恵(作家、看護師)●こばやしみつえ氏。看護師、編集者を経て1991年より執筆業を中心に活動。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。2017年より看護師としてデイサービスの現場で週3のアルバイト中。エンゼルメイク研究会代表(2001年~)。看護に美容ケアをいかす会代表(2016年~)。最新刊『介護はケアマネで9割決まる!』(扶桑社、2018)など著書多数。

連載の紹介

小林光恵の「ほのぼのティータイム」
人気漫画「おたんこナース」の原案者である著者が、医療・介護の現場にまつわる話題から看護師のプライベートな悩みまで、気になるテーマを取り上げます。看護師が日常の中でふと感じる疑問や悩みなどに対して、著者ならではユニークな視点から新たな提案をします。仕事で疲れてホッと一息つきたい時におススメのコラムです。

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