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夜勤入りの挨拶、「こんばんは」じゃダメ?

2019/03/14
小林光恵

イラスト:立花 満

 10年ほど前の5月の前半ごろだったと思います。エンゼルケアセミナーの講師を務め終えた私の前に、受講してくれた方々による質問の列ができました。最後列に並んでくれた方は20代後半と思しき小柄な女性で、私に向かってこう切り出しました。「私、社会人を経て今年看護師になり病院に就職したのですが……、すみません、エンゼルケアのことじゃなくてもよろしいですか?」

 「あっ、はい」と応じ、私に分かることであれば……と付け加えようとしたら、それより先に彼女は猛烈な勢いでしゃべり出しました。

「こんばんは」は非常識だと言う先輩たち
 「就職先の病棟は3交替制で、先週は初めての深夜勤研修でした。少し早めにスタッフステーションに入ったら準夜の先輩方3人が記録中で、私のプリセプターも既に来ており看護記録に目を通していました。

 私は深夜業務を教えていただく新人としてしっかり挨拶しようと思い、声を張り気味に『こんばんは!』と言いました。それから、準夜の皆さんにはねぎらいの気持ちを込めて『お疲れ様です!』、プリセプターには『よろしくお願いします!』と挨拶しました。でも、先輩方の反応には驚きましたね。

 準夜の1人は無表情で無言のまま私を一瞥すると記録を再開。1人はノーリアクション、つまり無視。もう1人は『何、この人』と言いたげな表情を見せた後、ちらとプリセプターを見遣りました。それを受けたプリセプターは私をにらみ、『ご近所さんにばったり会ったのとは違うんだから、こんばんは、は非常識でしょ。お疲れ様です、です』と低い声で言うと、あきれたように、ため息。

 『こんばんは』が非常識? そんなのおかしいですよね。その病棟では、朝の挨拶として皆が『おはようございます』と言っています。だったら、夜になれば『こんばんは』ですよね。『お疲れ様です』というのは、ねぎらいの言葉を挨拶語として転用したわけで、常識・非常識で言うなら、『こんばんは』の方が常識度は高いと思うんですよ。

 まあ、挨拶の言葉というものは、その場その場の慣習ですからね。私が入った病棟の慣習が『お疲れ様です』だというなら、それに倣いますよ。ただ、挨拶には自分の心を開いて相手を認めるという意味合いがあるんですよね。だからこそ、私は心を込めて『こんばんは』と言ったんです。それなのに……」

 「挨拶とは何か。それは、心を開いて相手に迫るということである」という誰かの名言がありましたね……と言おうとしましたが、彼女は間を置かずにどんどん続けました。

 「挨拶とは、その日を共に気持ち良く過ごすためにとても大切なものです。それが分かっているとしたら、私が『こんばんは』に込めた思いを受け止め、『こんばんは。でも、うちでは、お疲れ様です、と言っているのよ』と、穏やかに対応してくれたらいいんじゃないかしら。非常識なのはどっち?という感じです。がっかりですね。看護職が聞いてあきれます。だから、私、辞めますから!」

著者プロフィール

小林光恵(作家、看護師)●こばやしみつえ氏。看護師、編集者を経て1991年より執筆業を中心に活動。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。2017年より看護師としてデイサービスの現場で週3のアルバイト中。エンゼルメイク研究会代表(2001年~)。看護に美容ケアをいかす会代表(2016年~)。最新刊『介護はケアマネで9割決まる!』(扶桑社、2018)など著書多数。

連載の紹介

小林光恵の「ほのぼのティータイム」
人気漫画「おたんこナース」の原案者である著者が、医療・介護の現場にまつわる話題から看護師のプライベートな悩みまで、気になるテーマを取り上げます。看護師が日常の中でふと感じる疑問や悩みなどに対して、著者ならではユニークな視点から新たな提案をします。仕事で疲れてホッと一息つきたい時におススメのコラムです。

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