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週刊誌を妄信し、治療方針を無視する患者さん

2018/10/26
石原藤樹(北品川藤クリニック・院長)

 医療情報と称するものが、一般の方々に対して、ここまで過剰に発信される時代がかつてあったでしょうか。確実になかったと断言できます。特に最近は、テレビ番組と週刊誌上での情報発信が増えているように思います。

巷にあふれる情報におぼれる視聴者・読者
 少し前まで、テレビの医療番組というものは、一部の教育番組を放送しているような局でのみ、医師会などの監修下で放映されているという感じでした。ところが、今や医療はバラエティー番組の主要なテーマの一つとなり、「名医紹介」などを謳う番組がゴールデンタイムで競って流されるようになりました。もっと幅広いテーマを扱うバラエティー番組でも、結構な頻度で医療ネタが扱われています。

 多くの総合週刊誌では、毎週1本は医療記事が載っています。そして、そこには「こんな医者にかかると殺される!」というようなセンセーショナルな見出しが躍っているのです。内容の大枠は編集部が決め、それに沿うような意見を持つと思われる医師や専門家に取材し、その発言の都合のよい部分だけをパッチワークのように組み合わせて構成するのがパターンではないでしょうか。

 こうした医療情報の氾濫は私たち医療者にどのような影響を与え、それに対して私たちはどのように対応すればよいのでしょうか。今回は、私が実際に経験した事例から、このことについて考えてみます。

事例:週刊誌を真に受けて内服継続を拒否した糖尿病患者
 Aさんは80歳代の男性で20年前から糖尿病と診断され、SU薬を主体とした2型糖尿病の内服治療を継続していました。SU薬の二次無効と思われるコントロールの悪化があり、HbA1cは9%を超えていました。幸いなことに、合併症はそれほど進行していませんでした。

 Aさんには生活に困るような認知機能の低下はありませんでしたが、もともと性格的に「こう」と思うと他のことは目に入らないというようなところがあり、それが歳を重ねるにつれてより頑なになっていきました。健康オタクの側面もあり、週刊誌の医療記事には残らず目を通し、その情報に踊らされることもしばしばでした。

 Aさんが私のクリニックを受診したのは、「75歳を超えたらこの薬は使うな!」というような週刊誌の特集記事で、「使ってはいけない薬」としてSU薬が取り上げられていたのを読んだからです。AさんはSU薬を処方した前医に対して憤慨し、その服用を直ちにやめ、私のもとへやって来ました。

 現在、80歳代で安全に使用できるような糖尿病治療薬はほとんどありません。DPP-4阻害薬、GLP-1アナログのインクレチン関連薬、ピオグリタゾンがかろうじて容認されるというくらいです。

 私は「以前から継続していたSU薬であれば、それを中止することが最善の選択とは必ずしも言えないし、処方した主治医とよく相談して薬を調節してもらうのがよいのでは?」ということを伝えましたが、Aさんは「もう、あの医者にはかからない」と取り合ってくれません。そこで私は、DPP-4阻害薬と比較的少量のメトホルミンで治療を開始し、治療効果が不十分だったためピオグリタゾンを追加しました。追加処方するときは、ピオグリタゾンはむくみの出やすい薬であることを説明しました。

 その数日後、お怒りの電話がAさんからかかってきました。週刊誌の「この薬を飲んで死にかけた!」というテーマの特集記事を読んだところ、「ピオグリタゾンで心不全になり緊急入院した。その初期徴候として足のむくみが現れていた」ということが書かれていたらしいのです。Aさんは「お前は俺を殺そうとするのか!」と相当な剣幕です。「軽いむくみについては、検査もしながら様子を見ているので心配ありません」と説明しましたが、それで納得するような相手ではありません。最悪の事態だけは回避したいと考えた私は、DPP-4阻害薬とメトホルミンは継続、ピオグリタゾンはいったん中止するよう指示しました。私のクリニックで投薬し始めてから約1カ月後の出来事でした。

 それから約2カ月の間、Aさんが私のクリニックを受診することはありませんでした。ところが突然、Aさんは息子さんと一緒に外来に現れ、その間の経緯を語ってくれました。

著者プロフィール

いしはら ふじき氏●信州大学医学部医学科、同大学院卒。医学博士。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、1998年より六号通り診療所(東京都渋谷区)所長。2015年10月より北品川藤クリニック(東京都品川区)院長。著書に『誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方』『健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな!』。趣味は演劇とマジック。

連載の紹介

医学と看護の交差点でケアを考える
クリニックで診る疾患、症状は多様で、治療がゴールにならない=「ケア領域」の患者さんが多くいます。医学だけでは太刀打ちできない中、医師が看護師などの他の医療従事者と力を合わせ、同じ方向を向いて患者さんと向き合う機会は、実際にはそれほど多くないのではないでしょうか。本連載では、内科開業医である著者が医学と看護の交差点に立ち、過去の知見の分析と臨床知から、医療の形を見直します。

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