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「伝言ゲーム」による「不連続な医療」の現実

2018/03/14
石原藤樹(北品川藤クリニック・院長)

 私は自分のクリニックの外来診療の傍ら、近隣の特別養護老人ホーム(特養)の配置医として入所者の健康管理に当たっています。その特養における仕事の中で、私が今一番悩んでいるのが、「大量の薬を服用している人が入所してきたとき、どのように減薬していくべきか」という問題です。

 特養は老人福祉施設という位置付けで、医療を継続する必要のある高齢者が入所する施設です。ただし、病院ではありませんから、病状が安定していることが入所の条件となります。本来は自宅に戻るまでの一時的な居住施設ですが、特に入所期間の制限がないため、実際には看取りも行う終の棲家となっているのです。

 特養に入所してくる人は、たいてい大量の薬を飲んでいます。私は配置医として、その人に必要性の高い薬のみを残して、それ以外の薬を段階的に減量しようと考えます。しかし、それはそう簡単なことではありません。そのわけについて事例を通してご説明しましょう。

事例―脳梗塞を起こして施設を転々とする高齢者
 Aさんは88歳のときに脳梗塞を起こし、救急車で地域の基幹病院に運ばれました。そこから約1か月して、リハビリテーションを兼ねて長期療養型と呼ばれるタイプの病院に転院となりました。さらに複数の老人保健施設(老健)や長期療養型の病院を経て、私が配置医をしている特養に入所したのはAさんが90歳のときでした。

 こうした場合、特養に届く情報提供書は、直近に入所していた病院もしくは老健のものだけです。その内容は非常に簡素で、脳梗塞を起こしたことと、直近の処方内容が記載されてあるだけです。しかし、その処方に関する記載を見ても、どの薬がどのような目的でいつ開始されたのか、というような詳細はまったく分かりません。

 Aさんのケースでは、抗血小板薬クロピドグレルと抗凝固薬ワルファリンが併用され、プロトンポンプ阻害薬の処方も継続されていました。利尿薬や降圧薬も複数処方され、抗けいれん薬もフェニトインとバルプロ酸の2種類が処方されていました。Aさんは認知症も抱えており、身体的にも寝たきりに近い状態で、自力で座位を保つこともできません。当然、処方は減薬することが望ましいと思われますが、さて、どのように達成すべきでしょうか。

伝達される情報の乏しさが減薬を阻む
 Aさんには抗血小板薬と抗凝固薬の両方が処方されていましたが、アテローム血栓性脳梗塞であれば通常は抗血小板薬のみで問題ないでしょうから、心臓にも何か問題を抱えていた可能性がうかがわれます。とはいえ、入所時の心電図検査で心房細動は認められず、心筋梗塞を起こしたというような情報もないので、理由が分かりません。発作性の心房細動があったのでしょうか。いずれにしても再発なく2年は経過しているのですから、抗血小板薬か抗凝固薬のどちらかを中止することが妥当だと考えられます。しかし、どちらを中止すべきなのか…。はたと迷ってしまいます。

 また、プロトンポンプ阻害薬が併用されていますが、抗血小板薬との相性はあまりよいとは言えず、他の薬に変更した方がよいようにも思えます。そもそも、このプロトンポンプ阻害薬の処方は、抗血小板薬の副作用予防のためでしょうか。それとも、逆流性食道炎など別の胃腸疾患の治療のためでしょうか。これも情報がないのでまるで分かりません。胃カメラなどの検査が簡単に行えれば、ある程度は処方理由の見当が付けられるものの、90歳で認知症もある状態では安易に胃カメラの指示も出せません。さらに黒色便もなく採血で貧血も強くないとなると、判断の材料がありません。

 抗けいれん薬の処方もまた悩ましいところです。おそらくは脳梗塞後にてんかん発作を起こしたのだと思いますが、それ以降発作がないのだとすれば、そろそろ減量してもよいように思えます。抗けいれん薬は、認知機能に対してはよい影響を与えないので、全身的に考えれば断薬するのがベストでしょう。しかし、脳波を撮ることも簡単ではありませんし、経過が分からないので何を指標にして減量したらよいのか分かりません。仮に特養内でてんかん発作が起これば対応は非常に困難で、救急車を呼ぶほかありません。

 このようなわけで、薬が多すぎることは分かっていても、いざ減薬をしようとすると、その指標や根拠となる情報が何もないという現実に直面することになるのです。

著者プロフィール

いしはら ふじき氏●信州大学医学部医学科、同大学院卒。医学博士。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、1998年より六号通り診療所(東京都渋谷区)所長。2015年10月より北品川藤クリニック(東京都品川区)院長。著書に『誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方』『健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな!』。趣味は演劇とマジック。

連載の紹介

医学と看護の交差点でケアを考える
クリニックで診る疾患、症状は多様で、治療がゴールにならない=「ケア領域」の患者さんが多くいます。医学だけでは太刀打ちできない中、医師が看護師などの他の医療従事者と力を合わせ、同じ方向を向いて患者さんと向き合う機会は、実際にはそれほど多くないのではないでしょうか。本連載では、内科開業医である著者が医学と看護の交差点に立ち、過去の知見の分析と臨床知から、医療の形を見直します。

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