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看取りの告知はどうする?(3)
「良い看取り」と「悪い看取り」の違いは?

2017/03/14
石原藤樹(北品川藤クリニック・院長)

 前回までにご紹介した2つの事例の明暗を分けているものは何でしょうか? 

 事例1「在宅医療へ移行した癌患者が退院当日に自殺」では看取りの主体となっているのは患者さん本人ですが、事例2「「家族の結び付きを深めたホームでの看取り」では、本人は認知症が進行していて看取りの方針について理解できる状態ではなく、結果として看取りの主体は家族になっています。

 事例1で自殺企図という深刻な結果になった背景には、推測の域ですが、Aさんは退院しても、まだ自分のがんは治る可能性があるものと、わずかな希望を持っていたのだと思います。それが、病院の主治医から「もう病院でできることは何もなく、看取り期に至った」と宣告されるとともに退院となり、さらに、自宅で待ち構えていた医療従事者や介護者も、Aさんのわずかな希望を根こそぎ奪い取るような態度を取りました。患者さんがまだ自ら判断が可能な状態で、病院から「看取り期の宣告」を受けるときには、こうした問題が往々にしてあるように思います。

「予後の告知は正確でなければならない」という風潮
 2016年、大物司会者であった大橋巨泉さんががんのために亡くなりました。大橋さんが週刊誌に書かれたコラムによると、大橋さんは大病院入院中に「在宅介護へ移行しても問題はない」と言われ、担当となった在宅介護の院長(本人の表現)から、「どこで死にたいですか?」と聞かれて非常にショックを受けたと言います。結局その院長への不信感がつのり、薬が合わなかったことも相まって、再入院になったという経緯があったようです。これも推測の域ですが、大橋さんも実際には「看取り期の宣告」を受けたものの、それを本当の意味で理解することができず、不幸な転帰になったのだと思います。

 人間は希望がないと生きていけない生き物なのです。最近は「病気や予後の告知は正確でなければならない」という風潮に毒されて、そうした本質的な部分がなおざりにされているように思います。

 後述しますが、現在多くの医療・介護現場では、患者に治療の選択肢がなくなり終末期に入ると、どこかのタイミングでそれを本人や家族に告知し、今後の方針を話し合います。こうした現行の「看取り期の宣告」のシステムは、家族への説明としてはうまく機能するケースが多いです。家族は告知を機に当事者の人生をもう一度見直すことができ、個々に責任を持ってその死に向かい合うことができるからです。

 事例2は、まさに家族の絆が深まったよい看取りのケースだと言えるでしょう。看取りの方針についての話し合いが1つの大事な機会となり、改めて、患者さんである母親が最期の時をどう過ごすべきか家族が考え、家族一丸となってケアに参加していく中で徐々に母親の死を受け入れていきました。

 しかし、病院で治療を受けている末期がんの患者さん本人に対しても、同じように看取り期の宣告が行われている点は大きな問題です。病院からホスピスへ移る場合には本人も納得はしやすいのですが、病院から在宅医療へ移行する際には、患者さん本人への説明が不十分なケースが多いのです。本人への告知は、すべての希望を切り捨てるようなものであってはならないですし、「病院が厄介払いをした」と誤解されないような、もっと繊細な配慮が必要なのではないでしょうか。

 具体的には、本人が希望すれば、いつでも入院は可能であるし、治療の再開も可能であるという選択肢を提示することが望ましいのではないかと私は思います。それが可能な状態であるかどうかは問題ではなく、その選択肢を常に残しておくということが重要なのです。

そもそも看取りとはどういうことか?
 そもそも、今の医療現場では、一昔前より「看取り期」に入ったことの線引きをある程度明確にしないといけない仕組みになっています。

 「看取り」というのは日本独自の言葉で、そもそもは「病人を看護する」という意味合いですが、「最期を看取る」という慣用的な表現の影響で、「人生の最後の時期をサポートする」というようなニュアンスが加わりました。

 2006年の介護報酬改定において、看取り介護加算というものが創設されました(表11)。これ以降、「看取り」という言葉は、ほぼ100%「人生の最後を静かにサポートする」という意味になり、そのサポートをする専門職にとっては、「手術」「処置」などと同様に、一つの仕事内容を表す言葉になったのです。

著者プロフィール

いしはら ふじき氏●信州大学医学部医学科、同大学院卒。医学博士。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、1998年より六号通り診療所(東京都渋谷区)所長。2015年10月より北品川藤クリニック(東京都品川区)院長。著書に『誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方』『健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな!』。趣味は演劇とマジック。

連載の紹介

医学と看護の交差点でケアを考える
クリニックで診る疾患、症状は多様で、治療がゴールにならない=「ケア領域」の患者さんが多くいます。医学だけでは太刀打ちできない中、医師が看護師などの他の医療従事者と力を合わせ、同じ方向を向いて患者さんと向き合う機会は、実際にはそれほど多くないのではないでしょうか。本連載では、内科開業医である著者が医学と看護の交差点に立ち、過去の知見の分析と臨床知から、医療の形を見直します。

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