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「目指すべき老衰」を阻むつらい訴えに対応する(10)腹水
「腹水は抜いてはいけない」とは限らない

2019/07/12
平方 眞(愛和病院)

 本連載では、書籍『看取りの技術』の内容の一部を、加筆修正してご紹介します。今回は、がん患者さんの腹水への対応法について述べます。

腹水が増える3つの原因
 腹水は、腹腔内に液体が過剰に貯留した状態をいいます。腹腔内には通常、数十mLの腹水が常にあり、腸の蠕動時の潤滑油的な働きをしています。腹水は、腹膜から少しずつ出て再び腹膜から吸収され、通常は一定の量を保っています。

 何らかの原因で、そのバランスが崩れて腹水の量が増えていくと、腹腔内臓器を圧迫したり、横隔膜を介して肺を圧迫したりして、「お腹が張る」「痛い」「みぞおちが苦しい」「息苦しい」などの症状が現れることがあります。腹水が大量にたまると、腹部膨満感による苦痛が強くなり、食事が摂れずに体力がますます低下してしまうこともあります。調査によって幅はありますが、がん患者さんの15~50%に腹水貯留が見られるとされています。

 腹水が増える原因は、以下の3つの場合が考えられます。

(1)生成される量が多い
(2)吸収される量が少ない
(3)排水が妨げられている

 (1)は、細菌感染による炎症や腹膜播種などによって、腹膜炎が起こっている場合が多いです。特に液体を産生する性質を持ったがん(漿液性嚢胞腺がんなど)が腹膜播種を起こすと、1日1L以上たまることもあります。

 (2)の吸収が少なくなる原因として多いのは、血中のアルブミン量の不足です。血液中のアルブミンは血管内に水分を保ったり、血管内に水分を引き込んだりする働きをしています。アルブミンが不足すると、水分を血管内に引き戻せなくなり、腹水が増加します。アルブミンは肝臓で生成されており、肝臓の機能が低下すると腹水がたまりやすくなります。どんながんでも終末期にはアルブミンが低下するので、腹水も貯留しやすくなります。

 また、(3)の排水が妨げられる原因としては、心不全があって静脈圧が高まり、血管内への水分移動が減少して腹水がたまるようになることが挙げられます。補液量が多かったり腎不全などで体内の水分量が多くなったりしても、同様に静脈圧が高まって腹水がたまりやすくなります。

 乳び腹水という、白っぽく混濁した腹水がたまることもあります。通常、腹水は腹膜から吸収されて、血管に戻ったりリンパ管を通って排水されたりしますが、リンパ管が腫瘍によって損傷すると、脂肪滴を含むリンパ液が腹腔内に漏れ出して、乳び腹水になります。

「腹水を抜いた方が生命の長さも質も高まる」との報告
 細菌感染など、腹水がたまる原因が明らかで治療可能な場合は、その治療を行います。がん性腹膜炎を抗がん剤によって治療することも、腹水の減少には効果があります。しかし根本的な治療がない場合も多く、その場合は苦しくならないように対症療法を行います。

 一般的にはまず利尿薬を使います。利尿薬によって血中の水分を尿として排出し、血中のアルブミン濃度が高まったり静脈圧が減少したりすることで、より多くの腹水が血管内に戻るようになります。カリウム保持性利尿薬やループ利尿薬のほか、トルバプタン(商品名サムスカ)などの水だけを排出する利尿薬も登場し、組み合わせて使うことでより高い効果が期待できるようになってきました。

著者プロフィール

1990年山梨医科大学(現山梨大学)医学部卒業。武蔵野赤十字病院、町立厚岸病院、自治医科大学血液内科を経て、1994年に諏訪中央病院に着任。96年頃から訪問を中心に緩和ケアを開始し、98年に緩和ケア担当医長に就任。2009年から愛和病院副院長。著書に『看取りの技術』(日経BP)がある。

連載の紹介

平方眞の「看取りの技術」
国内に数少ない緩和ケア専門病院で副院長を務める筆者が、これまで1500人以上の患者を看取ってきた経験を基に、患者・家族をより良い死へと導くための技を紹介します。癌などの基礎疾患を抱えていても「最期は老衰を目指す」というのが、筆者の診療スタンス。そのノウハウとは——。
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 これまで1500人以上の患者を看取ってきた著者が、患者に納得いく最期を迎えてもらうための“平方流”看取り方を公開。迫り来る「多死社会」を意味あるものにするため、患者を「より良く看取る」ための技と心得を、終末期医療に携わるすべての医療者に向けて伝授する。(平方 眞著、日経BP社、3240円税込)

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