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「目指すべき老衰」を阻むつらい訴えに対応する(7)食欲不振
悪液質症候群になったら栄養と補液をどうする?

2019/02/20
平方 眞(愛和病院)

 本連載では、書籍『看取りの技術』の内容の一部を、加筆修正してご紹介します。今回から、がん患者さんの食欲不振への対応法について述べます。

がん患者の悪液質症候群とは
 がん患者さんにおける食欲不振の原因は多岐にわたります。ざっと挙げるだけでも、悪心・嘔吐、胃内容停滞、便秘、腹水、消化管狭窄・閉塞などの消化器系の原因、痛みや呼吸困難などの症状によるもの、嚥下困難や口内炎、味覚・嗅覚の異常によるもの、高カルシウム血症などの電解質異常によるもの、肝・腎不全によるもの、さらに抗がん剤やオピオイドなどの薬剤や放射線治療など治療に関連して起こる食欲不振もあります。

 これらによる食欲不振に対しては、可能であれば原因を取り除くように対応します。悪心・嘔吐であれば制吐薬などを投与する、消化管閉塞では閉塞を解除する方法を検討する、薬剤の副作用であれば副作用対策を十分に行ったり薬剤を変更したりする──といった具合です。

 こうした可逆的な食欲不振とは別に、疾患の進行や加齢など、全身状態の変化による食欲不振があります。がんがあって食欲が減少している場合には「悪液質症候群」が関与していることが少なくありません。悪液質症候群とは食欲不振、体重減少、筋肉量の減少を主たる症状とし、疲労感、倦怠感、早期満腹感を伴う症候群です。別の基準では、「筋力低下」「疲労感」「食欲不振」「除脂肪体重の減少」「血液検査異常(炎症性マーカーの上昇、貧血、低アルブミン血症)」の5項目のうち3つ以上を満たすものとする定義もあります。

悪液質は「悪」か?
 悪液質については解明されていないことも多いのですが、悪液質という病態が存在する理由として、がんに栄養を与えないように体が食事量を絞っているのだという説もあります。体が栄養を多く摂ると当然、がん細胞にも栄養が多く行きわたります。栄養摂取を最小限に留めることでがんが育たなくなるように食欲を抑えている、細く長く共存しようとする体の反応ではないかというわけです。

 悪液質が生じてからの生存期間は、平均すると1カ月弱というところかと思いますが、個人差が大きく一概には言えません。悪液質が発現したときには活動性は低下し、大変やつれた外見になるため具合が悪そうに見えますが、悪液質に移行した人はそれはそれでバランスを保っているように見え、個人的には明らかに寿命が短縮するという印象はありません。

 悪液質に対する治療としては、ステロイドや補中益気湯などの漢方薬の投与がありますが、投与するかどうかは元気になりたい気持ちが強いかどうか、投与して良い効果が得られそうかどうかを考えながら、慎重に判断します。ステロイドは、骨格筋の同化作用と食欲亢進作用があるので、投与することで食欲が回復し、元気も取り戻すことがあります。人によって効き方は大きく違いますし、比較的短い期間で効果が見られなくなることも多いのですが、その時間を活かせそうなら考慮すべき治療です。

 悪液質による食欲不振で、高カロリー輸液による栄養補給が必要となる場面は、ほぼありません。悪液質が解消されていない体に積極的に栄養を入れても、その栄養は悪液質の解消に役立たないだけでなくがんの栄養にもなります。高カロリー輸液を行っている患者さんが悪液質になったとき、血液検査をすると栄養が余って著しい高血糖になっていることもあります。悪液質になったら、その状態に合わせるために積極的に栄養を絞っていく配慮も必要です。

がん末期の補液は必要か?
 脱水状態で苦痛が生じている場合に補液を考えることは悪くありませんが、がんが進行して体力が低下し食事量が極端に減少した状態は、多くの場合「老衰」に限りなく近い状態と言えます。この状況で健常な人と同じ量の補液を行うと、許容量を超えてしまい、浮腫や喘鳴、腹水や胸水の増加、倦怠感などの症状増悪を招きます。日本緩和医療学会の「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン」でも「終末期の補液はなるべく控えめにした方が、患者の苦痛が少なくて済むことが多い」と記載されています。

著者プロフィール

1990年山梨医科大学(現山梨大学)医学部卒業。武蔵野赤十字病院、町立厚岸病院、自治医科大学血液内科を経て、1994年に諏訪中央病院に着任。96年頃から訪問を中心に緩和ケアを開始し、98年に緩和ケア担当医長に就任。2009年から愛和病院副院長。著書に『看取りの技術』(日経BP)がある。

連載の紹介

平方眞の「看取りの技術」
国内に数少ない緩和ケア専門病院で副院長を務める筆者が、これまで1500人以上の患者を看取ってきた経験を基に、患者・家族をより良い死へと導くための技を紹介します。癌などの基礎疾患を抱えていても「最期は老衰を目指す」というのが、筆者の診療スタンス。そのノウハウとは——。
著書『看取りの技術』好評販売中

 これまで1500人以上の患者を看取ってきた著者が、患者に納得いく最期を迎えてもらうための“平方流”看取り方を公開。迫り来る「多死社会」を意味あるものにするため、患者を「より良く看取る」ための技と心得を、終末期医療に携わるすべての医療者に向けて伝授する。(平方 眞著、日経BP社、3240円税込)

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